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砂漠の薔薇の竜  作者: 白桐沙蓮
本編
9/17

街道沿いの街



王都までの道すがら、大規模な襲撃は一度だけだった。

というのも、リューシャの圧倒的な強さに何の下準備もなく挑むのは危険であると、襲撃者たちの統括者は判断したからだ。

監視をつけようにも、リューシャの指導の下で竜言語の習得に勤しんでいるレーヴェの実験台として利用されるばかりでまったく役に立っていないので、仕舞いには監視すら付かなくなった。

生体魔道具ミストルティンによる監視という案もあがったが、封印状態ならばともかく起動させてしまえばバカスカと周囲の魔力を食べる道具をそう簡単に使えるわけもない。

当然だが使用すれば周囲を警戒しているリューシャに即効でバレる。

彼らとて、それくらいは考えている。

そんなわけで、王都までの街道を平和に進んだ一行は最初の補給地点である一つ目の街に辿りついていた。

痛んでしまった馬車の車輪の修理や馬の交換、食料の確保。

馬車による長時間移動のせいで疲れ果てた体の休息などしなければならないことは多い。

補給はそれを担当する班が動いている。そして、休息を割り当てられた班の一つで、一人の男がじっとりと、それはもうかなりじっとりと。

ハルヴァードの扱いを反復するリューシャと、竜言語習得のために魔力周波の即時変更の訓練をするレーヴェを見つめていた。

その眼差しは、確かに二人に注がれるものだったがどちらかといえばリューシャへと注がれる比率が高い。

好奇心とはまた違うその視線に、思わずリューシャが唇を引きつらせながらレーヴェに声をかけた。


「……あなたの仲間だから、言いたくはないけれど。ないのだ、けれど……」


ハルヴァードの型の質問をするように見せかけつつ、リューシャの言いたいことをそれはもう正しく理解したレーヴェは、気の抜けたような困った声音でどう説明したらいいものか、と呟いた。

珍しくまごつくその反応に、悪いものではないと理解したリューシャだが、悪いものではなくても良いものとは限らないということもまた理解しており、レーヴェの返答を待つ。


「……だめだな、言葉にならない。アレに関しては、もうその身で味わってくれとしか俺は言えない」

「味わって…って。嫌な予感しかしないのだけれど?」

「俺に言えることは唯一つだ。嫌だと感じたら実力行使で吹っ飛ばしてくれてかまわない」

「余計に嫌な予感しかしない………」


レーヴェがそこまでいうので、流石にリューシャも尻込みする。

人間よりは頑丈だと自負しているし、この場に竜殺しの武器の気配もしない。リューシャにとっては安全地帯なのだが、どことなく寒気というか悪寒というか。そんなものが背筋を伝う。

思わずリューシャは視線の主の方向へと向ける。

瞬間、男は我慢できないとばかりに立ち上がり、リューシャに突撃してきた。


「お願い、その髪触らせてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


変質者と変わらない台詞を叫びながら。


「ひっ!?」


思わず自身が竜であり、男を軽く瞬殺できることすら忘れてリューシャはレーヴェへと抱きついた。本能的な恐怖と言ってもいいだろう。なんだろう、アレに関わってはいけない気がする。

男は30メートル程の距離を魔法による強化を施していない状態としては最速の速さで突き抜け、二人の前に躍り出る。

瞬間、レーヴェの上段蹴りが見事にその変質者の顎を打ち抜いた。


「ゲハッ!?」

「リューシャに近づくな変態」


脳震盪を起こしたのだろう、倒れ伏す変質者だが常人には理解できない速度で復活するや否やリューシャに手を伸ばそうとする。

そうなることを見越していたレーヴェは容赦なく変質者の頭を踏みつけて大地と接吻させると念入りに踏みつける。そこに容赦という文字はない。


「ヒドイ、ヒドイわぁ…」

「知るか」


だが、そんな扱いをされているというのに変質者は慣れたように滂沱の涙を流しつつ起き上がった。しぶとい。


「ちょぉっとだけ、ドラゴンちゃんのそのキレイな薔薇色の髪に触りたいなぁって思っただけなのにぃ」

「しなを作るな気色悪い。今すぐ氷付けにしてやろうか」


今なら竜言語練習かねて串刺しからの嬲り殺しコンボで殺ってやるよ、と酷薄な笑みを浮かべつつレーヴェは言う。リューシャは彼の後ろで引っ付いたまま固まっている。


「んもぅ、わかったわよ。ドラゴンちゃんにはこれ以上近づかないわよぉ」

「……」

「ちょ、いやぁねぇ、ホントよホント。睨まないでちょーだい。アナタの髪にも触ったりしないわよ」


レーヴェの長く細い三つ編みの髪に手を伸ばしてきた変質者は、レーヴェの口が開きかける前にそう言って3メートルほど距離をとった。

彼が竜の契約者で、その竜から魔術の教えを受けているというのはここ数日で師団内に広がっている。うっかりここで魔術短縮詠唱で攻撃魔術なんぞ使われたら壊滅的な被害をこうむるだろう。当然、自分が。自分の身は可愛いので引き下がったというわけだ。


「…とっとと名乗れ、変態」

「誰が変態よ!騎士師団遊撃部隊所属エヴァリスト・バルテレミーと申します。どうぞ、気兼ねなくエヴァとお呼びください」


変態もといエヴァレストは、そう言ってリューシャの前で騎士の礼を取った。

蜂蜜色の髪、少し明るめのペリドットのような瞳。レーヴェが精悍と呼ばれるような顔立ちならば、彼は甘やかな、と称されるだろう風貌だった。

いわゆる、甘いマスクというか女受けする顔立ちだ。

これで最初の変態発言と女言葉さえなければ、リューシャの中でも見目・・の評価は上々だったはずである。


「……リューシャ、だよ」


名乗られ、礼までつくされれば返さねばならない。レーヴェに告げたよりも短く名を告げたリューシャはレーヴェの後ろからではあったがそう名乗った。

自業自得だが警戒されまくったエヴァリストは、困ったようにレーヴェへと視線を向けた。

当然帰ってきた視線はとてもとても寒々しいものだったが。


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