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砂漠の薔薇の竜  作者: 白桐沙蓮
本編
7/17

夜の視線






深夜。

町を出発する直前である。

誰かに見られていたような気がして、リューシャは寝転がっていたベッドから素早く移動した。

だが、誰もいない。いや、誰もというのは間違いで、レーヴェが壁をはさんだ隣の部屋で眠っている。

騎士たちに宛がわれているこの寄宿舎の部屋というのは2DKのような作りになっていて、壁で半分だけ仕切られた寝室と、共同スペースになっている。

最低限生活できるだけのスペースである以上、侵入者がいれば即座にわかる。

しかしリューシャは嫌な予感を拭いきれず、大きく息を吸い込むと大声を出した。

いや、大声というにはその声は人の耳で感知することはできない音だった。

超音波というやつである。

魔力を乗せた超高音はリューシャの読みどおり拡散し跳ね返る。

跳ね返った音を魔力で解析すれば、一部変な動きをする部分があった。


「魔力が食われてる?」


そう、音は跳ね返ってきているのに、それに乗せたはずの魔力が跳ね返ってこないのだ。

おかしい。なにかある。

魔力を消滅させるもの、もしくは魔力を食べるもの。

それは魔術か、それとも


「…生体魔道具ミストルティン?」


様々な種類がある魔道具の一種である。

魔術と素材の融合によって生み出されるものだが、数種類の生物を魔術によって強制的に生きたまま・・・・・混ぜ合わせて製作される。

本来ならば使用者の魔力によって効力を発揮するのが魔道具だが、生体魔道具はその魔力消費の激しさ故に、周囲のすべての魔力を糧にする。

まるで周囲に寄生するかのような使用条件に、ヤドリギという名を与えられた。

それこそ、リューシャが生まれる前に生み出されたというドラゴンを素材にした生体魔道具は生み出した国中の魔力を食い尽くしたと聞く。

魔力というのは世界に宿る力そのものだ。それを食い尽くされれば当然植物も動物も魔力を糧に生き、死して魔力を世界に還元する役割を持つ精霊も竜も、そして人間もなにもかも存在できない。

生体魔道具を生み出したその国は一年とたたずに滅び、国を食い尽くしたその生体魔道具は普段は人間社会に干渉しないはずの『空潜む星の竜(ヴェルーリヤ)』たちによって叩き壊された。

生体魔道具ミストルティンとは今では魔道具製作の中でも禁忌と呼ぶべき技術である。


魔術、生体魔道具。

魔力の消失の理由を見極めるために、もう一度リューシャは魔力を乗せた声を発した。

返ってきた音はやはり魔力だけ消えており、そしてその量は最初とまったく同じ量だった。


(魔術じゃない。常に安定した量の魔力が消えてる。なら生体魔道具?目的は?可能性としてはこちらの監視になるけれど……)


そう悩んでいれば、ふ、とリューシャを見つめる視線のようなものが掻き消えた。

気づかれたか、とため息を吐く。

目的も人物もまったくわからないが、どうやらこの王都行きの旅は厄介な事件に巻き込まれそうだ。

こうなっては、素養がわからないからと出し惜しみなどせずにレーヴェに契約石を介した魔術詠唱短縮や身体強化の方法を教えたほうがいいのかもしれない。

成り行きでの契約で、しかも互いに虚言を弄しないというなんとも子供のする約束事のような契約内容だが、それを望んだのは確かに己でもある。


「レーヴェには、ちょっと大変な思いをさせてしまいそう、かな……」


リューシャがすべて蹴散らしてもいいのだが、だからといってすべてを守れるわけではないのだ。

リューシャの戦闘経験は少ない。

自分自身を守るだけの戦いならしたことがあるが、大多数を相手取ったり、ましてや誰かを守りながらの戦闘の経験など皆無に等しい。

守るべき相手が少数ならばドラゴンの姿で抱えて飛び去ってしまえば大体終わるけれど、そうはいかない状況だって有りうる。

だから、守るべき相手にも少し強くなってもらうしかないのだ。

たとえば、無差別に放たれる竜の吐息ブレスを一時的でもいいから耐え切れる結界を作り出せるようになる、とか。

そういったものでもかまわないのだ。少しの間でも自力で身を守ってもらえるならば、その間にリューシャは己の能力の高さにものを言わせて敵を叩き潰すことができる。


「世界は、本当にままならないんだね……」


一人きりで砂漠にいたころには考えなかった事ばかりだ。

けれど、リューシャはそのままならなさがひどく愛おしい。

それはたくさんの人が意思を持って生きているということ。

それはたくさんの人が自分の幸せや誰かの幸せを願っているということ。

そうではないことも多いだろうけれど、方向も方法も間違っているかもしれないけれど、それでも今よりも進化しようとしているということだ。

ドラゴンは、進化を止めてしまった種族だ。

その強さに驕り、停滞してしまった種族だ。

だからこそ、人間の流星の様な生きざまに、こうも目を奪われるのかもしれない。


「とりあえず、朝になったら言わないと」


厄介ごとが降りかかって一番大変なのはきっとレーヴェたちだから、情報は伝えないといけない。そう考えながらリューシャはベッドにもぐりなおした。朝はまだ遠い。


完全、故に竜は停滞し滅び逝く種族に成り果てたのです。

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