非常識の塊
がらごろがらごろ。
王都までの補給地点であった町を出発し、騎士団第十二師団と『人食い竜事件』の関係者を乗せて馬車は進む。
王都まで残り三分の二というあたりだ。
この厄介ごとが終了するまでは、例え書類が受理されていようとなんだろうとリューシャは客分の扱いだ。
とはいえ、騎士たちの魔法訓練に借り出されていたりはする。
「人の魔術は、とてもまだるっこしいね……」
「ドラゴンと人間の情報許容量を比べないでちょーだい」
リューシャの一族である『砂漠の薔薇の竜』は魔術に長けた一族だ。
ドラゴンの中でも一際抜きん出ている。
竜言語による短縮詠唱はもちろんのこと、魔力の運用方法や人間が使用する魔術においてもその見識と応用力は人間の魔術師さえ凌駕する。
なにしろ、研究に使える時間も魔力も膨大にあるのだ、当然である。
そんなわけで、竜言語や短縮詠唱については契約者であるレーヴェ以外は使用不可なので投げおいて、人間が使用している魔術の訓練を監督することになったのだ。
「『世界接続』してみて、どうしてレーヴェがドラゴンの魔術はチートだって言ってたのか、やっと分かったよ」
「…いまさらなの?」
「だって、人の魔術に関する知識なんて別に必要なかったし」
リューシャと関わりがあった魔術師は軍師として名高かったディディエだが、彼は彼でアレンジを加えまくって竜には及ばないものの高速発動を可能としていた。
それゆえに、彼女の印象の中での人間の魔術というのは、そういうものだったのだ。『世界接続』で正しい人間の魔術の構造を知りそれが例外だったと知り、結構ショックを受けている。
「紋章と詠唱。二つ揃わないと駄目だなんて……」
単純にいえば、ドラゴンの魔法は世界にお願いしていて、人間の魔法は精霊にお願いしているのだ。
魔術というのは、どういった現象を起こしてほしいのか、それを世界に直接もしくは精霊から世界に伝えてもらって、その現象を引き起こしてもらう。対価が魔力だ。
世界はすべての存在の始まり。それに対して『お願い』するのは簡単だ。世界そのものに『魔力波動』を合わせて、その合わせた魔力で『お願い』すればいいのだ。自身が世界の末端になる、とも言える。
当然、世界と波長を合わせる際にかかる負担は莫大だ。合わせることによって流れ込む世界の情報の量など、人間が耐えられる量ではない。
だからこそ、ドラゴンやその契約者以外は使用できない。
精霊は、魔力の流れを管理する世界の末端だ。
世界中に流れる魔力の流れが乱れないように、乱れても大きな被害を出さないように管理する者たち。
彼らは世界とも、人間とも、魔獣とも『魔力波動』を合わせることができる。
人間の使う魔術とは、図形と詠唱の両方に魔力を乗せることで精霊たちに『魔力波動』の調律をお願いしているのだ。
そして調律してもらって初めて世界がその『お願い』を聞き届け、発動する。
かかっている手間が違うというわけだ。
「で、最近はほとんど無敵と言って過言じゃないリューちゃんの防御魔法に向かって全力で魔法を撃ちまくる、なぁんて訓練してるわけだけど。アタシとしては成長してるのかどうなのか、よく分からないのよねぇ」
「成長してるんじゃないか?一応」
馬車の中、魔法訓練の打ち合わせをするリューシャとエヴァリストの横から声がかかる。
馬で併走するレーヴェだ。
「撃てる魔法の回数が上昇しているらしい」
「へぇ?ってことは、魔力量が増量しているってことよね。それなら、納得かしら」
「魔力量は上昇してないよ?」
うんうん、と納得したようにうなづくエヴァリストに、さくっと否定の言葉を言うリューシャ。
なんで!?とわけがわからないと頭を抱える青年に、リューシャは当然だと笑う。
「人間の魔力量はどうあがいたって成人を超えたら増えないよ。この訓練は、精霊に詠唱(お願い)を届ける速度を上昇させる訓練だよ。自分自身の魔力のクセを理解すれば、どうすれば精霊が受け取りやすいかが分かるようになる。ディディエがしていた、自分自身に合わせた詠唱アレンジの切欠を得る訓練、かな」
「火炎系魔法が得意でも、水の精霊の波長に合わせるのが苦手だったら、水系魔術の詠唱は時間がかかる。自分の魔力の波長がどの属性に近いか、把握する訓練だな」
「うん、レーヴェの言うとおりだよ」
ちなみに、契約した時点でレーヴェの魔力波長はリューシャの波長に上書きされている。
人間でありながらドラゴンの波長に近い魔力を持つ人間。それが現在のレーヴェだ。
とはいえ完全に波長がリューシャのものになっているわけではないし、その変化も契約石を身につけているからこそ安定しているのであるが。
「はぁ……、なんかもうアタシにはわけわかんない世界ね。いいわもう何も考えず効率がよくなるから、にしておくわ」
エヴァリストはため息を吐いた。
ドラゴンの非常識さを改めて思い知ったエヴァリストだった。
「?そんなに難しいかな??」
非常識の塊とされたリューシャだけは、それを自覚していなかったが。




