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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛があるなら

作者: コモリ

男は女の殺人計画を練りながら、待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせ場所は、有名なからくり時計のある時計台の下。女はすでにその場所に到着していた。あの大きな時計が外れて彼女の頭を直撃する方法を考えながら、男は女に手を振った。


「やあ。ごめん、待った?」

「全然。今きたとこ。」


男に気づいた女はいじっていた携帯をパタンと閉じて微笑んだ。秋らしい色合いのワンピースにダッフルコートを着込んでいる。ポニーテールにした髪には白いリボンが結ばれていた。


「すごい可愛いよ。特にそのリボン。」

「ほんと?わたしのお気に入りなの。嬉しいー。」


いざとなれば、ほどいて首を締めあげるのに使えるな。なんて考えながら男は褒めた。

女は嬉しそうに頭に手をやっている。


まず、2人は映画を観にいった。

映画の内容はベタベタなラブストーリーを選んだ。色んな壁にぶつかりながら男女が徐々に距離を縮めていき、最後は付き合うことに反対してきたお互いの両親が和解し、見守られながら結婚するというハッピーエンド。

なかなか結婚に煮え切れない彼氏に向かって彼女が「結婚しないならタカシくんを殺して私も死ぬわ!」と包丁を向けながら叫ぶシーンは大絶賛で、このシーンを予告で見てすでに泣きそうになった女性が多いそうだ。男にはあまり理解できそうにもないが。

映画が始まると、当然映画館は暗くなる。

女は映画に夢中で、意識はスクリーンに向けられている。

今なら気づかれずに彼女の肩に腕をまわす振りをして首に移動させ、締め殺せるかもしれない。

しかしここは映画館。

万が一彼女が悲鳴でも上げたら、周りの人間にたちまち気づかれる。

男は迷った末、叫びそうになったら口を塞ぐことにした。こんなに暗いし、少しもぞもぞ動いても気づかれないだろう。

男が行動に出るため、シートの肘置きに置いていた腕を動かそうした瞬間、女の白い手が男の手に重なった。上からぎゅっと握られて男は動揺した。まさかバレたか!しかし横を見ると女は映画を見て一筋の涙を零していた。どうやらバレたわけではないらしい。男はほうっと息を吐いた。


映画が終わると2人はランチをとることにした。

本格的で小洒落たハンバーガーショップに入り、席につく。

「ほんとにここでいいの?俺の奢りなんだからもっと高いところでもいいんだぞ?」

「ううん。一度来てみたかったのここ。」

ランチで1000円以上を越える店を女が決めていたら、男は人目も気にせずポケットに入れたナイフで胸を突き刺していただろう。この女にそんな金を出す価値はない。

女は楽しそうにメニューを選び始めた。その顔を眺めながら、男は、女が死んだ後のことを考える。まずユリ子と堂々とホテルに入ってヤり捨てる。真美は資産家の娘だから結婚してもいいが、あの女は金遣いが荒い。美保はイイ身体をしているから愛人にしてやってもいい。麗子も悪くない。麻里奈も捨てがたい。

こんなに俺は女どもに求められているのに、この女1人の相手をしなければならないのか。この女の父親が俺の上司でなければ・・・と女があーんと差し出してきたピクルスを、怒りをなんとか飲みこむ気持ちで噛み締めた。

「うまいよ。」


昼からはショッピングをしてまわった。

増えていく紙袋を持たされ続け、男はこめかみをひくひくしながら耐えた。途中本が入った紙袋で思いきりぶん殴ってやろうとしたが、中に入っていた本が男の尊敬する作家の書いた本だったので思いとどまった。

アイスを買って休憩していると、女が「いただき!」と言って男のアイスを一口かじった。何しやがるこのアマ!!男はアイスを顔面にぶつけてやりたくなったが、気持ちを抑えて、「お返し。」とスプーンで女のアイスを思いきりほじくって多めに奪ってやった。その様子を隣の席の一人きりのオタクっぽい男がこちらを殺しそうな勢いで睨んできた。その勢いでこの女を殺してくれ。「リア充爆発しろ。」そうだ、爆死でもいいからさ。


夜、二人はレストランに入ってディナーをとった。

評判がよいレストランなので、いつかここは美香と絵里と一緒に来たいと男は思った。途中手が滑ってワインを零すという失態を侵してしまったが、服が汚れなかっただけ幸いだった。こんな辱めもこの女のせいだ。


食事が終わると、2人は手を繋ぎながら歩いた。女が「たまにはホテルに行こ?」と甘えるように身体を寄せ、男は女の髪に触れながら頷き、ホテルに着く間にかたをつける決意をした。ビルとビルの間の人目につかないところに女を誘う。

「どうしたの、我慢できなくなっちゃったの。しょーがないなあ。」

女はクスクス笑いながら身体をすり寄せてきた。男は女の腰を抱き、動けないよう固定するとポケットのナイフを振り上げーーー。


「なああにいいい?こんなとこで盛っちゃってえ、ちょっと、おい姉ちゃん俺の相手もしてくれや〜?」

「きゃっ。」

「なっ、」


いいところで酔っ払いのおっさんが、女の足に絡みついてきた。くそっ、ポケットからナイフが取り出せない。邪魔だ!


「おい、おっさん!何俺の女に手ぇ出してんだ、ああ?」

「ひいっ」


男は酔っ払いの右腕をひねり上げた。ひいひい声を上げて酔っ払いがよろける。全く余計な邪魔が入ったと男はポケットに手をやりーーーーそこでなんの感触もないことに気づいた。


「ん?なんだあこれ?」


見たら、先ほどの酔っ払いがいつの間にか男のナイフを持っていて首をかしげている。それ俺の!!男が呆然としているうちに女が悲鳴を上げた。それを聞きつけて人が集まり始めた。ナイフを持っている酔っ払いと悲鳴を上げた女、守るように女の肩を抱いている男。この構図はどうみても酔っ払いに襲われているカップルだ。偶然にも近くを通りかかった警官が正義感を燃やし、酔っ払いを抑えつけ、現行犯逮捕した。


「ああ、怖かった〜。でも守ってくれてありがと。」


男はすでに女の話を聞いていなかった。男の殺人計画はことごとく失敗したのである。男は内心頭をかきむしった。

















女は時計台の下で男を待っていた。携帯でメールを送信する。宛先は予約してきたレストランのワインセラーだ。彼に金をやってワインに毒を仕込むように頼んでいたのだ。脱いだパンツまで与えてやったのだから、仕事は確実にしてもらわなければならない。

しかし、それは最終手段であって女にはいくつもの殺人計画を仕込んできた。ほくそ笑む女の元に男が手を振ってやって来た。


「やあ、ごめん。待った?」

「全然。今きたとこ。」


女は携帯を閉じて微笑んだ。男はチェックのシャツにパーカー。ブランドもののジーンズ。格好はまあまあ。顔はいいのよね、顔は。イケメンのカテゴリに入るだろう男を見上げて女はため息を吐いた。


「可愛いね。特にそのリボン。」


女はギクリと身を強張らせた。リボンに仕込んだ毒針に気づいたかもしれない。恐る恐る男の様子を見るが、気づいた様子はないことにホッとする。ただ純粋に褒めてくれただけらしい。女は嬉しそうに振る舞ってみせた。


最初は映画を観た。友人がやけに勧めるので、選んだラブストーリーものだが、あまりにつまらなすぎて欠伸をこらえるのに必死だった。だいたい主人公の女がこんなに男に尽くしているのに、この男のヘタレっぷりはどうなのだろうか。しかもマザコンだし。男も馬鹿だが、そんな男が好きな女はもっと馬鹿だ。

と、それより。女は表情を引き締め直した。

この暗い映画館のシチュエーションは、秘め事に勤しむのに最適だ。昔は付き合っていた別の彼とエッチな秘め事もしたが、今はその秘め事の方ではない。女は映画を観ている男の横顔をこっそり伺いつつ、髪をかき上げるフリをしてリボンに仕込んだ毒針を出した。何気なく男の手に女の手を重ね、動きを封じる。男はびっくりして一度ビクッと指を動かしたが、それ以上は動かなかった。それでいい。女は男の手の甲に向けて毒針を向けーーー。

ガン、と衝撃が走り、女は毒針を落としてしまった。後ろの人間が座席を蹴ったのだ。たぶん故意ではないだろうが、女にとっては最悪のタイミングだった。今から拾ってもこの暗さじゃ見つからないだろうし、あまり長く探すと不自然だ。女は諦めた。映画は結局退屈で、欠伸を我慢し過ぎて目尻に溜まった涙が落ちるくらいだった。


映画館を出た2人はランチをとることにした。

女は洒落たハンバーガーショップをランチに選んだ。どうせ奢りなら高い店を選びたかったが、何度か後ろの人間から座席を蹴られて身体が揺れたので酔って気持ち悪くあまり食欲がなかった。

ほんとにここでいいの?と聞かれ、食べたかったからと適当に振る舞う。メニューを見ながら男を盗み見て、あーあと憂鬱になった。

女にとって男は金だった。金を貢ぐ男ほど扱いやすく何かと便利だ。今までの男はみんな女に溺れて金を貢ぎまくり自滅していった。付き合っていてもすぐ身を滅ぼすような男ではダメだ。結婚はさらに金持ちではないと満足できない。それなのにパパが選んだのは部下のこの男。つまらないし、金もない。良いのは顔だけ。最悪。はやく殺して保険金だけもらわなきゃ他のイイ男逃しちゃう。

女はだんだん腹が立ってきて、嫌いなピクルスを男の口に突っ込んだ。「あーん。」そのままフォークで喉を突き刺してやろうかと思ったが、血で自分のハンバーガーまで汚れてしまうので止めた。


昼は、ショッピングを楽しむことになった。女は当然男が買ってくれるものだと思っていたので、違うと知って内心かなり不機嫌になった。あてつけに荷物をたくさん持たせてやる。荷物の中に毒蛇でも仕込んでやろうかと思ったが、流石に今日毒蛇は持ってきていなかった。大失敗である。

途中アイスを買って休憩した。女はチョコが食べたかったのだが、男が先に注文してしまったので、同じものもどうかと思い、バニラにしてしまった。ムカつく!やっぱりチョコが食べたかったので男の一口奪うとバニラも思いきり奪われた。こいつ殺す。隣に地味な眼鏡の女の子が座り、こちらを殺しそうな目で見ていた。その勢いでこの男殺しちゃっていいよ。「リア充死ねばいいのに。」そうね、ほんとこいつ死ね。


夜は高級レストランでディナーをとる。

女は少なからず興奮していた。ようやくこの時がきた!ようやくこの男が泡を吹いて死ぬ姿を拝むことができる。気持ちが向上していたせいか料理はとても美味しく感じた。別の男に今度奢らせよう。やがてようやくワインセラーが登場する。ひょろひょろした魚っぽい顔のワインセラーは、女の顔を見てポッと顔を赤らめた。気持ち悪い。生理的嫌悪感で吐きそうになったが、目の前の男は気づいていない。ワインセラーは極上のワインで年代ものの〜と、説明をしながらワインをつぐ。お嬢様には女性にオススメのこれを、と女には別のワインをついだ。

「じゃあ、今日の素晴らしいデートに乾杯!」

「乾杯!」

そしてワインが男の喉を通り、男は喉を焼いて苦しむはずだったが。

「あら、ごめんなさい。」

男のイスに太ったマダムの体躯があたり、男は傾けたグラスのワインを零してしまった。慌てて避けたおかげで服には直撃をまぬがれたが、男はすっかり酔いが冷めてしまったようで、ワインセラーがどんなに勧めても、二度と飲もうとしなかった。

くそったれ!あと少しだったのに!女は叫びたいのを堪え、店を出るしかなかった。あの使えないワインセラーは金を絞りとって去勢してやる。女は誓った。


こうなったら女はやはり自分でやるしかなかった。コートのポケットには予備の毒針がもう一本だけあった。ただしこれは効果が出るまで時間がかかるので、人目のつかない場所が良い。そこで女は男をホテルに誘った。ところが、男が行為を待ちきれなくなったのかビルとビルの隙間の空間に女を誘ってくる。

外でかよ。まあいい。人目のつかない場所ならホテルでなくたって・・・と女は誘いに乗った。男が腰に手を這わす。女はコートのポケットから毒針を手に滑らせた。今度こそ、と思いきり針を押し込めようとした途端、背後から酔っ払いが現れた。

「きゃっ。」

「なっ、」

酒臭い息で「俺も相手してよ〜。」と叫ぶと酔っ払いは女の足を撫で回す。クソジジイてめえ邪魔なんだよ!女は酔っ払いの手を払う。すると突然男が酔っ払いをひねり上げた。ざまあみろ!女は酔っ払いに唾を吐きかけたい気持ちになったがふと見ると手にあったはずの針がない。嫌な予感がして、よくよく見れば酔っ払いのひねり上げてない方の手に、ぷすりと刺さっているではないか。

女は酔っ払いの手にしたナイフよりも針を失ったことに対しての悲鳴を上げた。すべての作戦が徒労に終わったのである。女は内心めそめそ泣いた。









2人は仲良くホテルに着いて仲良くチェックインした。2人は誰が見ても羨ましいくらい良いカップルであり、幸せそうだった。

イチャイチャと身体を寄せ合いながらホテルの部屋の鍵を開ける。鍵が古くてなかなか開かないことにクスクス笑い、どちらかともなくキスをした。

「「殺したいくらい愛してる。」」

その言葉の意味がどれだけ相手に伝わっているのかお互い知らず、愛は偽ったまま燃える。

ガチャリとドアが開く。目の奥にリベンジの決意を秘めて、2人は見つめあいながら部屋の奥へと消えていった。
































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