08 Invisible-Menace[見えない脅威]
『姫、悪ふざけはここまでです』
《黒の女神》隊長シャロンは、まるで保護者のように語りかける
「私は戻らない、父を止めなければならないから」
だかカレンはそれを拒否し、同時に誓った
戦争を終わらせる為に自らも戦うことを
『……おとなしく従わない場合は、機密を守るため撃墜も許可されています』
「私はこんな所で死ぬ気はありません」
父親は、娘の自分が死んでも構わないと思っていることを確信した
だが覚悟したカレンの心は揺らがない
「カレン」
「大丈夫ですよ」
「なら敬語はやめろ、どうもやりずらい」
そのケリィらしい言葉に、カレンは
「うん」
と少し笑いながら言った 『ならばしかたない、反逆者として処分する!』
「隊長!」
「わかってる!すぐに行く!」
「二人共、おれ達が行くまで近付くな!」
離れていたグリム、リーベンハルト、ミズキの三人は、女神接近の知らせを受けてケリィとカレンのもとへ急行する
ケリィ達は会敵しないよう女神から逃げながら時間をかせぐ
しかしスピードで勝るヴァルキリーが差を詰める
「やっぱあっちの方が早ぇな」
「ケリィ!」
「おれは大丈夫だから、先行け!」
ケリィ機のコクピットに警報音が小刻みになりだした
敵が近付くほど、その間隔は短くなっていく
「うおっ!」
敵の放った機銃がケリィ機の左翼をかすめた
とっさに機体を右に振り、致命傷をさける
「くそっ!隊長達はまだか!?」 ケリィは珍しく弱気になっていた
それほど機体の性能差は大きなものだった
「ケリィ!おまたせ!」
「グリム!てめぇ遅せぇぞ!」
その時、ようやくグリム達が追い付き合流した「全機反転!女神にたっぷりお礼をしてやれ!」
リーベンハルトの号令で一気に反撃に転じる
五対四、数では勝っている
『リーベンハルト、生意気な!一機残らず叩き落とせ!』
彼らは両翼の端から細く白線を引きながら、激しい空戦を繰り広げる
「すごい…女神と互角に戦ってる」
他の連合軍兵士の間から驚きの声があがる
後ろを取られては他の仲間が取り返す
息の詰まる戦いがしばらく続いた後、ついに動きを見せた
『機体が保てません!脱出します!』
激しい空戦の中、ついにグリムが女神の一機にミサイルを命中させた
「グリム、すごい!」
「ざまぁみろ!」
煙をあげながら落ちていくヴァルキリーを見下ろしながら、仲間達が歓声をあげる
「まだまだ、あと三機いるんだ」
当の本人はそれでも冷静に次の標的を見据えていた
『おのれ!まだこれからだ!』
『隊長!本国から緊急通信です!今すぐ帰投するようにと』
『……本国に直接攻撃だと!?被害は?』
『詳しいことはまだわかりません』
味方を一機落とされたうえに、敵に背を向けて逃げるなど出来るはずがない
だが本国が攻撃されたとあってはそうはいかなかった
『リーベンハルト、この借りは必ず返す!』
「なんとかなったな」
去っていく女神達を見ながらリーベンハルトが言った
その後女神の撤退を期に、帝国の部隊も撤退していった
『こちら沿岸守備隊、敵軍が撤退していく!空軍の働きに感謝する』
海には敵味方両方の戦闘機、艦船の残骸が漂っている
なんとか勝利したものの味方の被害も予想以上だった
グリム達が基地に戻ると、基地内は騒然としていた
不思議に思った彼らはそのまま戦術室に駆け込んだ
「クラックス!なんかあったのか?」
戦術室も同じように慌ただしく、スタッフがバタバタと走り回っている
「リーベンハルトか……詳しいことは調査中なんだが……」
「なんだよ?」
クラックスは静かに話始めた
「首都が直接攻撃を受けた」
「首都が!?」
全員驚いてしばらく黙ってしまった
するとミズキが思い出したように言った
「そういえば女神達が撤退するときもそんなことを……」
「あぁ確かに」
「じゃああの攻撃は帝国の仕業じゃない?」
国中に張り巡らされたレーダー網は、いかに低空を飛ぶ巡行ミサイルでも発見し、ほぼ百パーセント迎撃可能となっている
つまり、ミサイルによる首都攻撃は事実上不可能なのだ
この時すでに彼らの足の下では、《力》が目覚めていた――