02 Three-Years-Later[三年後]
調査隊全滅事件から三年。
あれから世界各地で【遺産】は発見され、調査研究が続けられていた。
「調査隊の事件を忘れたか!?【旧世代】は危険過ぎる!我々が触れてはいけないんだ!!」
「何を馬鹿な!あの力があれば世界は更に発展するぞ!」
遺産をめぐる今回の代表者会議は連合国と帝国の間で、何の進展もないままもうすぐ半年を迎えようとしていた。
(何が世界の発展だ…自国の軍事利用が目的だろう。)
両勢力の有力者が集まる会議も、これでは悪口を言い合う子供の喧嘩のようなものだった。
三年前の事件から現在まで同じような事件は起きていない。
〜連合国空軍ブルーオーシャン基地〜
太陽はすでに半分が水平線に沈み、空は炎のように赤く燃えている。
そんな景色を見ながらハンガーの前で煙草を吸う青年がいる。
「ふー。」
白い煙を吹きながら深呼吸をする。
「おう、グリム。珍しいな、今日は一人か?」
「あ、リーベンハルト隊長。ミズキなら部屋に戻りましたよ。」
リーベンハルトも胸ポケットから煙草を取り出した。
ライターを出そうとするが見つからず、体中を探している。
見兼ねたグリムが自分のライターを差し出した。
「…ふー、わりぃな。ミズキはまた自己分析か?」
「彼女は自分なりに上手くなろうとしてるんですよ。」
太陽は更に沈み、夕日は徐々にグラデーションを伴って夜の闇へと変わっていく。
綺麗な夕日と海があり、観光で賑わっていたこの地方も、会議で帝国との溝が深まると観光は禁止された。
「お前等も来週からは正隊員か。おれからすりゃまだまだ危なっかしいけどな。」
「大丈夫ですよ。」
グリムは笑いながら答える。
煙草を吸い終えた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
翌日―
「いよいよ…この日が来たか。」
窓から見える空は、蒼くどこまでも広がっている。
彼はこれからこの空を飛ぶことになる。
「行くか。」
顔を洗い服を着替えると、少しして彼は静かに覚悟し、部屋をあとにした。
訓練生達は全員ブリーフィングルームに集まっていた。
席についている彼らの表情は一様に緊張し、部屋は人がいるとは思えないほど静寂に包まれている。
そこへリーベンハルトが入ってきた。
その途端に彼らは一斉に立ち上がり敬礼をした。リーベンハルトも軽く敬礼を返す。
「…よし、全員いるな」リーベンハルトはモニターを点け、説明を始めた。
「今日は訓練課程終了試験だ。この試験をパスすればお前達は正式に隊員として登録される。」モニターには基地周辺の地図が表示された。
「この試験は小隊長含む四人編成を四チームで行なう。終了試験専用の機体を使った実戦形式だ。」
「実戦ですか?」
ふとグリムが聞いた。
「形式だって言っただろ。ほれ、さっさと行け行け!」
リーベンハルトはグリムの背中をバシッと叩いた。
「イタっ」
グリムは叩かれた背中に手を当てながら格納庫へ向かった。
訓練生達は二手に別れ、グリム達は第二格納庫へ向かった。
格納庫では試験用の機体が準備されていた。
「こいつが終了試験用特殊装備戦闘機、通称」
ガーベラには実弾は装備されていない。
専用のスコープを使用することで実際に空を飛びながら擬似的に空戦を体験できる。
「じゃあ各自準備しろ!」
リーベンハルトの号令で訓練生達は準備に向かった。
「グリム!」
グリムは声のした方に振り向いた。
「お、ミズキか。」
声の主は同じ訓練生のミズキだった。
彼女も終了試験に参加する。
「私も同じ小隊なんですよ。よろしくおねがいします。」
そう言ってミズキは軽く頭を下げた。
動きに合わせて金髪の髪がふわりとなびく。
「そうなのか、よろしくな。」
彼女は年下なわけではないが、父親が厳しかった為言葉遣いは誰にも丁寧だ。
頭を上げるとニコリと笑い、自分の機体の方に走って行った。
グリムも機体に乗り込んだ。
準備を終えてリーベンハルトを先頭に各機、滑走路に出てきた。
『こちら管制塔、α小隊発進どうぞ。』
「α小隊、発進する!」
爆音、爆風と共に彼らのガーベラが空へ上がっていく。
空は今日も晴天。
遠くに雲が見えていた。