18 Imminat-Crisis[迫る危機]
突如現われた巨大兵器の力の前に撤退を余儀なくされたグリム達は、ブルーオーシャン基地に戻りあの兵器を倒す方法を探っていた
「やはり巡航ミサイルでは歯が立たないか」
連合軍は巡航ミサイルによる攻撃を試みるが、シールドを突破出来ず失敗に終わった
手探りの状況が続く中それを嘲笑うかのようにルドラの魔の手がその範囲を広げていく
「室長!帝国軍より入電!クラフト基地は壊滅状態!」
「これで帝国領土の半分ですね」
「帝国軍は相当数の兵器をルドラに奪われたからな」
机一杯に広げられた世界地図
二つある大陸の一方を支配する帝国
しかし今やその領土の半分はルドラの手に落ちていた
アグニによれば、今ルドラは一番最初の命令を実現させるため行動している
その命令とは――
《王国に敵対するものを全て排除せよ》
この命令によって、ルドラの攻撃の矛先は連合帝国両軍に向けられる
同時多発的なルドラの攻撃に対して、両国は和平を成立させると同時に同盟を組み、共に戦うことを誓った
「あのさ、いくらルドラの軍を潰しても、また奪われたら同じなんじゃねぇのか?」
「私ノ遠隔操作機能ヲ応用シテプロテクトヲカケテイマスカラ大丈夫デス」
彼らはいよいよ行き詰まってしまった
「あのシールドをどうにかしなければ」
皆が頭を抱える中、ミズキがおもむろに口を開いた
「相手が機械ならコンピューターウイルスみたいな物が効くんじゃないでしょか?」
ミズキの発言に辺りは静まり返り、皆ミズキに注目した
よく考えればわかることだが、あまりに違和感のない会話で、彼らがAIであることを忘れていた
アグニも可能だ、と言ったが一つ問題点を挙げた
「ルドラ二ウイルスヲ送リ込ムニハ、首都ノ本体二直接送リ込ムシカアリマセン」
「かなりの危険がともなうな」
「でも、やるしかねぇだろ 敵はおれ達が相手をする」
「なら、ウイルスを送り込む役は私がやろう」
作戦は決まった
巨大兵器のシールドを取り除く為ルドラのコンピューターにウイルスを送り込む
グリム達が敵を引き付けている隙に、クラックがコンピューターを操作する
「その作戦、おれも混ぜてくれよ」
「隊長!」
「やっぱ信用出来ないか?」
「いえ、そんなことないです」
「メリーベル基地が攻撃を受けています!」
ルドラの軍隊はパイロットを必要としない為、侵攻が早い
彼らにはあまり時間は残されていなかった
「時間がない さっそく作戦開始だ」
「発進どうぞ!」
ルドラの軍隊はさらに勢いを増し、帝国領土のほとんどは、その無機質な侵略者に支配された
巨大兵器も支配地域の拡大と共に、連合国に近づいている
「そーら、敵さんが来たぞ」
ルドラの無人戦闘機とグリム達との空戦が始まった
クラックスを乗せたヘリはその隙に首都の大総統府に侵入した
首都にはすでに人影はなく、上空の戦闘が嘘のように静まり帰っている
誰もいない廊下を走りいくつもの扉を抜け、階段を下り、コンピュータールームの扉の前に立った
「目的の部屋に入った 作業を開始する」
クラックスは手にした通信機で外にいる仲間に連絡した
そこから管制機、味方部隊へと伝達された
「終わるまでふんばれよ!」
「巨大な熱源が接近してきます!」
「来たか」
遠くに見える雲に巨大な影が映っている
ゆっくりと雲を突き破ると、何本ものレーザーが飛んできた
「よけろ!」
グリム達を狙った攻撃を、サブスラスターをふかして回避する
「隊長!ここお願いします!」
「ああ!わかった!」
まだシールドは消えていないものの、注意をひく為に周りを飛び回る
「α8、12、撃墜!」
リーベンハルトの部隊も必死に応戦している
今は互角でも、疲労やGの影響がないぶん、長期戦になるほど不利になる
「急げよ、クラックス」
リーベンハルトは小さな声でつぶやいた
次の瞬間、隣を飛んでいた味方機が炎に包まれた
リーベンハルトの横顔が炎の色に染まる
「くそ!」
敵機はそのままリーベンハルトに狙いを変え、機銃を撃ちながらミサイル発射のチャンスを伺っている
「イーグルリーダー!後方に敵機!」
「誰か!リーダーを援護しろ!」
リーベンハルトは右に左に機体を振りながら、狙いを絞らせないようにしている
そこに味方の援護が追い付いた
単調な飛び方だった敵機は、すぐに撃墜された
「隊長!ご無事ですか!?」
「何発かくらったが影響はない 作業はもうすぐ終わるはずだ、ふんばれよ!」
そんな攻防が続く中、グリム達も必死に巨大兵器を足止めしている
「本当にもう!うっとうしいシールド!」
シールドはエグザイルの持ついかなる兵器でも突破することが出来ないほど強固なものだ
シビレを切らせたカレンが、シールドぎりぎりまで近づこうとする
「カレン!下手に近づくんじゃねー!」
「え?」
直後、カレンの機体は激しい衝撃に襲われた
「きゃああああ!」
不用意に近づいた為、その隙を突かれ、敵のレーザーで左アームを吹き飛ばされた
「カレン!大丈夫か!?おい!」
ケリィの呼び掛けにも反応はなく、コントロールを失った機体は、力が抜けたように落下しはじめる
「カレン!目を覚ませ!」
「このままじゃ海面に激突します!」
「カレン!」
どんどん海面が近づいてくる
ダメかと思った瞬間、突然コントロールが戻り海面までわずかのところで機体を起こした
すぐさまケリィが隣に機体を寄せる
「カレン!気が付いたか!?」
だが無線から言葉が返ってこない、無言のままだ
ケリィがコクピットをよく見ると、カレンは首がガクンと下がったまま気絶しているが、操縦桿は動いている
エグザイルには、ヘルメットのセンサーで脳波を読取りパイロットに異常が発生した場合、自動操縦による回避行動に移る機能がある
「自動操縦?」
「あぁ ひとまず落ちることはなさそうだ」
カレンを守るように、ケリィは隣を離れない
そこへ通信が入った
『連合軍ナラビニ、エグザイルノ諸君、無駄ナ事ハヤメタ方ガイイ』
「ルドラ……」
『オマエ達ノ兵器デハ、シールドヲ破壊スル事ハ出来ナイ モウ十分ワカッタダロウ?』
いっこうにシールドが破れる気配はない
リーベンハルトの部隊も徐々に押され始めている
「このデカブツが!」
カレン機が安全な距離まで離れると、ケリィは巨大兵器の方を睨みつけ向かって行った
「ケリィ!まだシールドが消えてない!」
グリムが引き止めるのも聞かず、火器管制を通常攻撃からマルチロックへ切り替える
向かってくる何本もの光の矢を躱しながら、射程距離内に捉えた
「届けーー!」
ミサイルが一固まりになって突き進む
途中、複数ロックした砲台に向けて分かれていく
『無駄ダ!シールドガアル限リ効カン!』
絶え間なく続いていた砲撃が止んだ
砲台は爆発し跡形もなく、炎と黒煙が上がっている
『馬鹿ナ!?』
空高く昇るこの黒煙は、グリム達の反撃の狼煙となった