13 Four-Wings[四つの翼]
帝国首都大総統府『遺産の間』――
「長期に渡る潜入任務、ご苦労だった」
「はっ」
ねぎらいの言葉をかけるシュナイダーにリーベンハルトは頭を下げ答える
その少し後ろにはシャロンも立っていた
「シャロン、奴らは動いたか?」
「どうやらエルサントにむかったようです」
「エルサント……あんなところに何が?」
目的が分からず困惑するシュナイダーとシャロン
だがその答えは後ろから聞こえた声が解決した
「ソコニハ『アグニ』ガイル」
声の主はエルサントに眠っていたアグニと同じ、高性能AIだった
「ルドラ、アグニとは何者だ?」
「アグニ……我ト同ジ統括AIダ」
ルドラは淡々と話す
その口調は寡黙で冷ややかな印象を与える
「ドウヤラ、アグニモ目覚メタヨウダ」
「だが我らにはクランブル・レイがある どうあがこうとも……」
その時シュナイダーの言葉を遮るようにルドラが言った
「イヤ待テ 敵ハオソラク唯一ノ対抗手段ヲ取ルハズダ」
「対抗手段がある?」
「共和国軍ガ、クランブル・レイヲ破壊スル為二開発シタ兵器――」
「エグザイル?」
「ソウ、『エグザイル』 クランブル・レイ二対抗デキル唯一ノ兵器」
旧世代戦争の中期〜末期
王国と共和国が、競って開発したクランブル・レイ
この時、共和国軍のクランブル・レイは謀反を起こした兵士によって自爆させられていた
そこで開発されたのが多目的戦闘小隊機『エグザイル』
「で、ここにその『エグザイル』ってのがあるんだな」
今グリム達は船の甲板にいる
海底にあるとゆう格納庫付近の海上に来ていた
「本当にこの下にあるんですかね」
ミズキは手すりから上半身だけ乗り出して海をのぞく
進む船があげる水しぶきの向こうには、並走するように魚の群れが見える
「皆サン、ソノ辺リデ止マッテ下サイ」
アグニの指示で船を止める
辺りを見渡すが、島はおろか陸地の影すら見えない
「それでどうすればいいんだ?」
「今入口ヲアゲマス」
「上げるって……」
その時突然地震のような揺れが襲った
「な、なに!?」
全員慌てて手すりに掴まる
すると今度は目の前の水面が盛り上がり小さな島が現われた
「ほ、本当に上がって来たぞ」
「サアドウゾ 私ハ管制室デ待ッテイマス」
そう言われグリム達は島に上陸した
水溜りをよけながら進み、島の中央付近にある入口からエレベーターで下がる
「さすがに深いな」
しばらく下がりエレベーターは止まった
ドアが開き、直接管制室に出た
「あ!あれ!」
そう叫びカレンが突然走り出した
他のメンバーも後を追い、一面ガラス張りの壁から下を見ると
「す、すげぇ……」
「これがエグザイルか……」
彼らの眼下には広い敷地に並ぶ四機の戦闘機があった
現行の戦闘機とは全く違う外見を持つそれは、静かに主を待っているかのようだった
「コレガ『エグザイル』デス」
モニターに映ったアグニが自慢気に言う
「エグザイルノ機体ハ、コノ時代ノ戦闘機トハ違イ、『アーム』ヲ装備シテイテ専用ノ武器ヲ持ッテ戦イマス」
「ちょうど四機みたいだけど、誰がどれに?」
「先程見セテ頂イタ、皆サンノコレマデノ戦闘データヲ基二、最適ノ組ミ合ワセヲ提案イタシマス」
《EX‐01 イージス》
平均的な装備と強化されたレーダー、センサー感度を持つ指揮官向けの機体
パイロットは隊長のグリム
《EX‐02 エスペランサ》
機体制御能力が高く、高出力のブースターによる機動力を生かした戦闘が得意
パイロットはミズキ
《EX‐03 バスター》
大口径のレーザー砲やステルス性を持つミサイルなど、主に後方支援を担当する
パイロットはカレン
《EX‐04 アーセナル》 四機中で最も弾数の多い機体
ミサイルはマルチロック機能を持ち、優れた火器管制能力を持つ
パイロットはケリィ
「早速デ申シ訳アリマセンガ、スグニ発進シテ下サイ」
「え?」
「敵機ガ接近中デス ルドラ二読マレテイタヨウデス」
ルドラはグリム達の動きを先読みし、部隊を差し向けていた
『エグザイルか……どんなものか見てやろうじゃないか なぁリーベンハルト』
『シャロン、油断するなよ お前も旧世代の技術力は知ってんだろ?』
『私がそう簡単に落とされると思ってるのか?』
シャロンには黒の女神の隊長に選ばれた自信とプライドがあった
それ故にリーベンハルトは心配だった
「お、おい!これ大丈夫なのか!?」
アーセナルのコクピットに乗り込んだケリィだが、何故か騒いでいる
というのも発進態勢に入った為、機体が垂直に上を向き始めたからだ
固定された土台から天井に向かってレールが伸びると同時に天井のハッチが開き奥に外の光が見える
「システム、進路オールグリーン カウントダウン開始」
カウントダウンが始まると操縦桿を握る手に力が入る
「3……2……1……エグザイル発進!」
合図と同時に高速で射出されあっという間に射出口から飛び出した
「どうだみんな!イケるか!?」
「大丈夫です!」
「いつでもいいわよ!」
「ったりまえだ!あいつらにお礼してやるぜ!」
あれだけの加速の中でも体にはほとんど負担を感じることは無かった
旧世代の技術力に驚きながらも隊列を組み、あっという間に飛び去った