12 Brains-Of-The-Past [過去の頭脳]
彼等は四機で基地に戻ってきた
事情を知らない兵士の中には、撃墜されたのかと心配する者もいた
しかし彼等は何も答えずに戦術室に向かった
「あ、お前達……」
言いかけたクラックスは、グリム達の只ならぬ雰囲気を感じ取った
「何かあったのか?リーベンハルトはどうしたんだ?」
グリム達はうつむきかげんのままだ
「おい、どうしたんだ」
ここでようやくグリムが口を開いた
「室長、実は……」
グリムはついさっきの出来事を話した
だが話せば話すほど、事実を固めていくだけだった
「あいつが、スパイだった……」
「私見ました 隊長が誰かと連絡取ってるとこ 今思えばいつもと様子が違いました」
「んー……」
クラックスは腕を組み何やら考えている
「となると、あのデータはあいつが……」
「データって?」
「おい、例のデータを出してくれ」
モニターに兵器ではない何かの図面が表示された
「いつの間にかデータベースに記録されていたんだ 【遺産】のデータだよ」
「これは何?」
「おそらくこれは、非常に高性能なAIだ 肉体のない人間と言ってもいい程のな」
「これを隊長が置いていったと」
残されたデータにはこの【遺産】の在処も記されていた
場所は連合領内南部、エルサント地方――
リーベンハルトが残したデータにより【遺産】の在処を知った連合は、さっそく部隊を派遣し調査を開始した
その部隊にはグリム達も同行していた
雪と氷が支配する極寒の地、エルサント
厳しい環境の為人も住んでおらず、調査も不十分だった
「よし、開いた」
【遺産】が眠る地下への扉は、厚く積もった雪の下にあった
口を開けた入り口の奥は、吸い込まれそうな暗闇が続いている
「ここ大丈夫なの?」
「カレン、ビビんなよ 隊長が残したデータだ」
「……うん」
そう言ってケリィが先頭で階段を降りていく
グリム達もそれに続く
階段はとても静かで寒く、足音が奥まで響く
「おい、扉だ」
「解析班を呼べ」
解析班によって扉が開かれた
身長の何倍もある巨大な扉が地響きと共に左右に開いた
「すごいな……」
「中に何があるんでしょう」
「入ればわかるわよ」
「そうゆうことだ 先行くぜ」
扉を入り数歩ゆっくりと進む
手には拳銃を持ち、辺りを警戒しながらゆっくりと
「暗くて何も見えない」
中は明かり一つ無い暗闇だ
だが突然部屋の照明ついた
「いきなり点くなよ!」
眩しさのあまり手で目を覆う
少しして眩しさにも慣れ、手をどけた
「何、ここ……」
カレンが驚きの声を上げる
部屋にはいくつか端末が並ぶだけで、特に目立つ物もない
「ここに何があるんだ?」
クラックスが呟いた時謎の声が響いた
「人ガ来タノハ、久シブリデスネ」
「誰だ!?」
全員とっさに銃を構える
「ソノ服装……アナタ方ハ王国デモ我々共和国デモナイデスネ」
「王国?共和国?」
「……コノ時代ノデータヲ下サイ」
クラックスが、現在の西暦や世界情勢などを教えた
「アレダケノ戦争ヲシテモ、マダ戦ウノデスネ」
「な・なぁ、あんたは一体何者なんだ?」
「コレハ失礼シマシタ」
すると部屋の中心にある円状の台の上に、天井の方から黄色の小さな光が渦を巻きながら降りてきた
その光は徐々に人の顔のような形を成した
「申シ遅レマシタ 私ハ共和国軍自律型戦略統括AI、通称『アグニ』です」
「AI?マジかよ……」
「本当に人間と話してるみたい……」
その後しばらく黙っていたアグニだったが、少し困ったように話し出した
「モシヤ、『クランブル・レイ』ガ使用サレマシタカ?」
「あのレーザーの雨か あれが、どうかしたのか?」
アグニはゆっくりと話を始めた
語られたのは王国の侵攻に始まる旧世代の戦いの歴史
「最後ハ戦術ナド無ク、アレノ撃チ合イ二ナリマシタ」
「撃ち合いってことは、あんな兵器がまだあるのか?」
「両軍二、一基ズツ シカシ我ガ軍ノ方ハ戦争ノ最後二破壊サレマシタ」
そしてアグニは、最後にグリム達に警告にも似た話をする
「クランブル・レイガ使用サレタトイウコトハ、『ルドラ』モ目覚メテイルト思イマス」
「ルドラ?」
「私ト同ジ自律型AIデス 私ヨリモ好戦的ナ擬似人格ヲ持ッテイマス」
「それを父さんが……」
カレンは悲しげな顔をする
今人々を苦しめる戦争は、自分の親が起こしたものだ
彼女は自分のことのような責任感を感じていた
「何か対抗策はないんですか?」
ミズキが聞くと、アグニはスクリーンを出すと言った
すると部屋の奥の床がせり上がりスクリーンが現われた
スクリーンには世界地図が表示され、あるポイントが示された
「でもここって島も何もないわよ」
「ここに何が?」
「共和国軍ノ秘密格納庫ガアリマス」
「格納庫の中は?」
「戦争末期二開発サレタ当時ノ最新鋭機デス」
グリム達は黒の女神達に対抗すべく、最新鋭機の眠る海域に向かう