11 Sky-Of-Betrayal[裏切りの空]
帝国軍技術開発局――
ここは帝国軍の兵器開発を一手に引き受ける機関だ
現在は主に【遺産】の研究を行っている
大きなモニターを前に、部屋一面に並べられた端末を、局員達が操作している
部屋にはキーボードを叩く小さな音が響いている
「シュナイダ−大総統、御報告いたします」
局の責任者が自分の席からシュナイダーと話している
「うむ、なんだ?」
「例の兵器の件ですが、もう間もなく最終調整が完了いたします」
「そうか、よくやった 使えそうか?」
「発射には問題ありません 他にも機能がある様ですが、そちらは調整が終わり次第解析に入ります」
「わかった 私もそちらに行くぞ」
「は、お待ちしております」
(ふふ、ついに世界は私のものだ)
その頃リオール基地では急ピッチで作業が進められていた
「おら!さっさと燃料持ってこい!」
「モタモタすんなよ!」
整備兵達の叫び声が飛び交う中、グリム達は作戦の説明を聞いている
「という訳で今回は一個中隊で作戦にかかる 説明は以上だ、質問は?」
グリムが辺りを見回し
「ありません」
と言った
「よし、各自準備にかかれ」
それを聞いて全員準備に向かった
するとグリムはリ−ベンハルトに呼び止められた
「隊長、なんですか?」
リ−ベンハルトはグリムの肩に手を置き、耳もとで囁くように言った
「戦闘中は、上に気をつけろ」
それだけ言ってリ−ベンハルトも準備に向かった
「上?」
この時グリムはリーベンハルトの言葉の意味がわからなかった
しかしこの後すぐ、その意味を知ることになる
「間もなく作戦空域に入る 全機戦闘準備」
アスガルド基地から南東八十キロ
リオール基地を飛び立った飛行中隊に命令が下り、攻撃開始を待つ
まだ敵がやってくる気配はない
「しかしよぉ、スパイがいるんならこの作戦もバレてるんじゃねぇか?」
その可能性は大いにあった
爆撃部隊全滅の前後、連合軍の部隊配置に関するデータなども引き出されている
「なら女神達が来るかもしるないな」
「グリム、噂をするば……だ」
「敵航空部隊接近!全機迎撃態勢をとれ!」
遠くの空に小さな影がいくつも見えてきた
はっきりとは見えないが、航空機であることは明らかだ
「迎撃開始!」
帝国軍技術開発局――
「大総統お待ちしておりました」
「調整はどうだ?」
「先ほど終了しました いつでもいけます」
目の前のモニターには何か巨大な兵器の図面や様々な数字が並んでいる
「これが……」
「【遺産】です これがあればこの戦争も早期終結となるでしょう」
「名はなんだ?」
「クランブル・レイ」
「なるほど 国も崩壊するだろうな」
シュナイダーは口元にうっすら笑みを浮かべ、局員に指示をだす
「よし さっそくこいつの力、連合に見せてやろう」
シュナイダーはクランブル・レイの攻撃座標を指定した
その座標は、今まさにグリム達が戦っている空域だった
戦闘空域では互いに譲らない接戦が繰り広げられていた
「四機目、落とした!」
そんな中、グリム達も着実に敵を落としていく
「もう!一体何機いるのよ!?」
「敵残存率、五十二パーセントです!」
「おらカレン、あと半分だ!ふんばれ!」
彼等にもさすがに疲れが見え始めた
だか目標はあくまでもアスガルド基地である
それを考えると、ついカレンも愚痴っぽくなってしまう
そしてグリムはついに、作戦前のリーベンハルトの言葉を理解することになる
「ん、なんだ?敵が離れていく……」
「なんだ、逃げんのか?」
その時、味方の管制機から通信が入った
「上空に熱源体、急速接近!」
「上!?」
上を見上げ目を凝らすとミサイルのような物が落ちてくるのが見えた
それは全員が見上げる中、弾けるような音と共にレーザーが雨の様に降り注いだ
「なっ!?」
「避けろ!」
帝国軍機はすでにその場を離れ、雨の下にいるのは連合軍機だけだった
「うわっ!くらった、落ちる!」
「ちくしょう!何なんだこれは!?」
次々に連合軍機が落ちていく
グリム達は端の方にいたため、なんとかよけることが出来たが、雨の中心部は悲惨な状況だ
ある者はコクピットを直撃し即死、またある者は操縦不能になり墜落、水面に激突した
なんとか脱出したパイロット達は、水面に浮かぶ破片につかまっている
「あんなにいた味方機がもうこれしかいない」
「一体ありゃなんだったんだよ!?」
「帝国の新兵器でしょうか?」
「レーザー兵器……これが【遺産】……?」
茫然と下を見下ろす彼等の耳に聞き慣れない声が聞こえてきた
『連合軍の諸君、見てくれただろうか?』
「誰だ?これは」
「父さん……」
「これがシュナイダー大総統……」
シュナイダーは国際チャンネルを使い、連合軍全てに通信している
『これが【遺産】の力、戦争を我らの勝利で終わらせる力だ』
シュナイダーの話はなおも続いているがグリムは作戦の事が気になっていた
「隊長、どうしますか?味方がこれだけじゃ」
「少し待ってくれ、迎えが来るんだ」
「迎えって……?」
すると今度は彼女達が現われた
「来た」
『やはり凄い威力だな 私達のとは比べものにならない』
迎えと言われてやってきたのは、黒の女神だった
そして真っすぐにグリム達に近づいてくる
『リーベンハルト、お前の仕事は終わりだ』
「あぁ、わかってる」
「おい、隊長!どうゆう事だよ!?」
彼等の疑問に答えたのは、リーベンハルトではなくシャロンだった
『まだわからないのか?こいつはもともと帝国の軍人だ』
「……スパイ」
ミズキがぽつりと呟いた
味方の情報を敵に流し爆撃部隊を全滅に追いやった憎むべき相手が、こんなにも身近にいたのだ
「隊長……冗談ですよね?」
「……すまんな、グリム」
今まさに味方だった人間が敵となって自分達のもとを離れていく
遠ざかっていくその姿を見ても、グリム達は信じられずにいた