10 SuSpicion[疑惑]
カレンが飲み物を持ってシミュレータールームの前まで来ると
「ちくしょー!」
中からケリィの悲痛な叫びが聞こえてきた
(また負けたんだ)
カレンが少し呆れながらドアを開けると、座ったまま落ち込むケリィと意気揚揚と立ち上がるグリムがいた
「はい」
「サンキュ」
落ち込むケリィに歩み寄り飲み物を渡すが、だいぶ堪えているようだ
「ケリィも頑張ったよ」
「そうかぁ?」
「うん、頑張った頑張った」
カレンはなんとか励まそうと肩をポンポンと叩く
ケリィは渡されたドリンクを一気に飲み干し、空のコップをカレンに突き返した
「グリム!また勝負しろよ!」
「ああ、もちろん」
「私も行くね」
そう言って二人は自分の部屋に戻って行った
「それじゃ、おれ達も戻ろうか」
「そうですね」
グリム達も、歩きながらいつまでも終わらない二人の言い合いを笑いながら部屋へ向かった
そして三日後の夜、連合軍空軍最大のリカール基地から、爆撃部隊『フクロウ』が飛び立った
電子戦機を伴った編隊で、ジャミングによりレーダー網をかいくぐりながら目標に接近
日付が変わり、0200時ちょうどに『Night-Owls』作戦は開始される
目標は、連合国領に最も近い帝国空軍基地アスガルド基地
「今出発した。攻撃開始は二時ちょうどだ」
『わかった……近々こちらの準備も終わる。そうすればお前の任務も終了する』
「……あぁ」
「こちらフクロウリーダー。目標に接近、各機爆撃準備はいいか?」
「フクロウ2〜フクロウ4全機、準備よし」
基地を飛び立って数十分後、 爆撃部隊は予定通り目標の近くまでやってきた
機体を黒系統にカラーリングしたフクロウは、闇夜に溶け込みながら静かにその時を待った
そして午前二時ちょうど――
「フクロウリーダーから各機、攻撃を開始する」
「了解」
機体下部のハッチを開け、投下ポイントへ向かう
だが次の瞬間には隣を飛んでいた仲間の機体は爆音と共に空中で爆発、跡形もなくなっていた
「な、なんだ!?」
「こちらホークアイ、前方にUNNOWN出現!」
「馬鹿な!あの距離から攻撃してきたのか!?」
ドォォン――
「くっ!」
「今度はフクロウ4がやられた!」
『全機撃墜を確認』
『情報通りだな、全機帰投せよ』
『了解』
『また手柄を立てたな、シャロン』
『罠とも知らずノコノコやって来た敵を落としただけだ、たいしたことはない』
『威力を試すにはちょうどよかっただろう』
『……もろすぎる』
爆撃部隊全滅の知らせを受けた中央指令部には、その知らせを聞いた時から一つの可能性が浮かんでいた
それはもちろん、内通者の存在である
その後、この作戦の存在とその失敗、そして内通者の存在が伝えられた
「けっ!夜間爆撃なんてセコイ真似するからだ」
ブリーフィングルームに集められたグリム達
ケリィはいかにも機嫌悪そうにイスによりかかり、足は机の上だ
「お前みたいに全部真正面から突っ込んだら、被害が増えるばっかりだ」
グリムが反論するが、ケリィの苛立ちは収まらないらしい
そこへリ−ベンハルトが入ってきた
「軍からの発表は聞いたな?」
「はい」
「上の連中はどうあっても、あそこを潰したいらしい。よって今回はおれ達も出ることになった」
グリムは素朴な疑問をぶつけた
「でも、ここからだとだいぶ距離がありますよ、なんでわざわざおれ達が?」
するとリ−ベンハルトは少し黙った後
「グリム、お前がいるからだ」
「え?」
「お前以前出撃した時女神の一機を落としてるだろ、それがお偉いサンの目に止まってな」
確かにグリムは以前、ヴァルキリ−を一機落としているが、その時はあまりに必死だった為、グリム自身もよく覚えていなかった
「リオール基地を経由して、帝国のアスガルドへ向かうことになっている」
ブリーフィングを終えると、早速出撃準備に入った
その後、リオール基地までやってきたグリム達は、補給と整備が終わるのを待っていた
「おい聞いたか?やっぱスパイがいるらしいぜ」
「爆撃作戦は参加部隊にしか知らせてないらしいしな」
基地の整備兵達が整備の合間に噂話をしている
同行した電子戦機からの報告により、敵がレーザー兵器を実戦投入してきた事が明らかになった
「レーザー兵器か」
「カレンのみたいのが出てくるのか」
「私のはまだ試作機だから。彼女達のはおそらく完成品、威力も有効射程も全然違う」
いくら試作機であろうと、彼等はレーザー兵器の力を目の前で見ている
あれよりも強力なレーザー兵器が自分達を狙っているのだ
(今のシルヴァーナで勝てるだろうか)
少しの不安と、それよりも少し大きな使命感を感じていた