転生三回目!!
「おぎゃああああああああああああああああ」
「元気な男の子ですよ、キャサ姫……」
チョンの、緑色の瞳が、頭から離れない。どこか悲しそうな目だった。とはいえ、また俺は殺されたようだ。チョンは優しい人間だった。俺を苦しまずに殺してくれたのだから。ただ、ああいう記憶を俺に与えて殺さないでくれ。残念ながら俺は転生先でも記憶が保持されてしまうんだ。
目が覚めると、金銀に輝く装飾、まるで「キラキラ」という音が鳴っているかのようなシャンデリア、あまりに大きなベッドに俺はいた。
俺は歓喜した。体を包んでくれるこの抱擁感、そして目を開けた時に見えた美貌の持ち主、滅茶苦茶美人じゃないか! しかも人だ! 金髪の長い髪が、小さな顔を浮かばせて、優しい目つきが心を溶かしてくるようだ! やった!
ただ、これまた母親かよ! 違う! 俺赤ちゃんスタートなの? なんか違うんですけど。でもいい。主人公が王族の息子として転生するのは定番だ。きっとものすごい能力やらなんやらを持っていて、きっと千年に一度の逸材とかいう異名が付くに違いない。
「名前はもう決めているわ。この子はジャン」
いやチョンみたいな名前にしないでくれよ。名前呼ばれるたびに複雑な気持ちになる。くそ、美人な母を持ったのはいいが、話せないのは辛い。「あうあうばぶばぶ」しか伝達手段がないのは、もはや滑稽だ。それに、俺の読んでいた転生ものとは違うのは時間の経過だ。次のページでとんとん拍子に時間が経って、才能が開花するなんてことは起こらない。あくまで時間通りに動くのだ。つまり俺はこの思考回路をもってしても不便な赤ん坊体型でしばらくは過ごさねばならない。苦痛に近い。
でも赤ちゃんに転生するということは、人生のやり直しと同じだ。しかもこの記憶や脳みそも持っている! 能力で無双はできなくても、頭脳で差をつけられるぞ!
思った通り、やり直すのはいいのだが、この赤ん坊とかいう体は不便で仕方がない。よちよち歩きでは、この部屋の隅から隅まで渡るのに数分かかってしまう。そのたびに執事っぽいタキシードの紳士が褒めてくれるが、なんとも嬉しい。
やっと認められている。なんなら褒められている。嬉しい。自分が認められて、理解されて、許容されている。こんな最高な環境はない。もう簡単には死にたくないな。この立場は都合が良すぎるから、八十歳ぐらいまでは生かしてほしい。
俺が死んだときにたくさんの人を泣かせるぐらいの人になって死にたい。それがいい。
キャサ姫は母の名前のようだ(母さんと呼ぶのは庶民的過ぎてなんか合わない)。
美しくて、いかにも才色兼備な母なんだろうと思う。そんな母に抱きかかえられて窓際から外を見せられる。広がっているのは、円形に広がる街並み。淡い黄土色のような色で染められており、人々が行きかっている。ここは城などではなく、屋敷のような建物らしい。少し標高の高い丘に建っているようだ。
「ジャン、いつかは、あなたがこの街をより良くするのよ」
何を赤ん坊に言ってんだ。伝わるとでも思ってんのか。
「今は亡き父の意志を継ぐのはあなたしかいないわ。私も、ジェスタも助けてくれる。あなたは一人じゃない」
俺が悪かった。伝わったよ。ちょっと荷が重すぎて現実味はないけれど、俺のことを認めてくれるなら精いっぱいやらさせてもらいますよ。
「ま、ちょっと早い話かしら」
笑顔が向けられて、安心する。美人ではあるが、恋愛対象としてではなくて、ちゃんと母として認識している。近くにいると安心する。ベチュの時とは違う安心感。そういえば、化け物母ちゃんも、どうしてるかな……。今頃、俺がいなくなって探してるのかな、電車で轢かれた世界の母さんもどうしてるのかな。
——もう、会えないもんな。
——数日後
基本的に柵のついたベッドに閉じ込められているため、何もすることができない。傍には常にジェスタがいて、ほんわかした顔で俺のことを愛でてくれる。楽しいよ、正直楽しいし嬉しいから「キャッキャッ」してるんだけど、もっと色んなことがしたい。
絵が滅茶苦茶上手いとか、いきなり喋られるとか、それこそ魔法使えるとか。でも、俺にできたことは、二足歩行だけだった。
「キャサ姫ぇ! 立ちました! 坊ちゃまが立ちましたよぉ!」
ジェスタがそう言って部屋から飛び出ると、ものの数秒で母が走ってくる。部屋の真ん中で仁王立ちしている俺に向かって「ジャン……」と呟いた後、マッハに近い速度で、隕石みたいな巨体が飛んできた。目の前が真っ暗になって、でも幸せな感覚が続いた。
まぁいい。求めてはなかったけれど、みんなが喜んでくれるのならそれでいい。
「ジャン、まだ生まれて一週間なのに! 天才! 天才だわジェスタ!」
「ええ! あまりにも天才です! 今日はご馳走です! 赤飯です!」
赤飯ってそういう時に食べるやつじゃねぇぞ。いやまて、この世界に赤飯があるのか? そういう時に食べるものなのか? そういうことにしておこう。赤飯とは言っているが、もしかしたら真っ赤っ赤の料理が出てくるかもしれないからな。侮れない。
その夜、結局出てきたのは肉料理だった。どうやら「赤飯」ではなく「セキハン」という料理らしい。ふざけるのも大概にしてほしいが、まさか赤ん坊に肉を食わせるのか。この世界じゃ俺の常識が伝わらない部分があるらしい。
ただ、残念ながら肉は美味かった。これも化け物みたいなモンスターの肉なんだろうが、牛肉のような美味さを感じる。ただ、あの、紫色のスープのあの母の暖かさは感じない。こんな屋敷だろうから、コックかなんかが作っているはずだ。できれば母の手料理が食べたいところだ。そのうち喋られるようになれば頼んでみよう。




