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無双

 ジャンはレギラの神話の話を聞いて、辞典の内容と齟齬がないことを確認した。才能のない者に与えられるチャンス。しかし、認められないという条件がどうも噛み合わなかった。それに、それでは転生できる理由に近づくだけで、チョンがなぜ、誰に殺されたのかは分からなかった。


「ジャン様が転生できたのは、才能がないからではなく、亡き国王の転生スキルを遺伝したからだと思いましたが、ジャン様がベチュ族に転生できる理由が分かりませんね」


 それはジャンの中で答えが出ていた。スライムで無駄死にしたあの時、そこに才能も人もなかった。だから転生はできる。しかし、ベチュ族からの転生が問題だ。


「べちゅぞくにてんせいできたのは、おそらくしんわのとおりだ。おれはたったひとりでしぬせかいをけいけんした。だから、もんだいなのはなぜ、べちゅぞくからいまのおれになれたのかだ。おれは、ははにみとめられていた」


 ベチュ族の際、母さんからの愛情を受け取っていたため、認められていないから転生はありえない。その時にはまだこの屋敷で生まれていないため、父の遺伝はありえない。


 レギラは「であれば」と口を開いた。


「おそらくチョンのスキルでしょう。チョンは洗脳のスキルを使えます。ベチュ族での操作のために洗脳スキルを使い、集落の住民を全員洗脳していたはずです。だから、ジャン様が接していた母というのは、あくまで洗脳状態での母だったから、それは認められているとは言えなかったのでしょう。」


 洗脳スキルだなんてとんでもないスキルを持っていたことにジャンは驚き、チョンが動揺をしていたことに納得した。洗脳が解けたから、チョンはいきなりあんな行動をしたのかと。


「チョンは、そういう人間です」


 レギラはそう呟いた。ジャンはまだ、混乱の波から抜け出せなかった。転生できる理由を見つけられたからって、それがチョンが殺されることには繋がらない。俺のことなんてどうでもいい。

 そう思う今の自分に、驚いていた。そのあと、ベチュ族での出会いや、チョンについて説明をしていると、


「ジャーン!」


 ほとんど雄たけびに近い声が聞こえて扉のほうを見ると、とんでもない破壊音と共にキャサ姫が扉を蹴飛ばした。


「今かよ……!」


 レギラはらしくない口調で言い放った。


「すみません……! 私たちじゃ止められなくて!」


 キャサ姫はボコボコにされたジェスタとビギンを引きずっている。その二人を捨てるようにそこに置いて「ジャン……そんな特技があったなんて……天才だわ」と何やら正気の沙汰じゃない目で言った。


「ジェスタ! 地下牢からセスタを呼んでください! スキル『愛』が暴走したと!」


 ジェスタは急いで飛んでいき、ジャンの前にレギラが立った。


「キャサ姫様、落ち着いてください。このままでは愛しのジャン様が傷ついてしまいます」


「傷なんてつけない……私のジャン……私の……もう失わない、もう失わせない、もう誰も傷つけないし、傷つきたくもない……」


「キャサ姫様、お気持ちは分かりますが、その状態だとジャン様を傷つけますよ」


「レギラ……うるさい! あんたが子供のころに私が拾ったこと忘れてんのか!」


「ええ覚えていますとも! 恩に着るというやつです! でも関係ないでしょう!」


「あんたがこぉんな小さい時の泣いてる写真ばら撒いてやろうか!」


「関係ねぇだろ!……て言ってますでしょう!」


「うるさい! ジャンには私しかいないのよ!」


「セスタ……早く……」


 キャサ姫はレギラに飛びかかる。


 その瞬間、月明かりに照らされた、輝く短剣が見えた。赤い長めの髪の毛が、風と空気に乗って颯爽となびきながら夜の部屋に現れる。空中でキャサ姫を横から差し込んでそのままベッドに押し倒した。そいつは、短剣を思いっきり振り上げて


——そのまま、キャサ姫の胴体に刺した。


「私の潔白、やっと晴れたのか?」


 そう言ってベッドの影から出てきたのを見てレギラは口を開いた。


「セスタ、ありがとう。あなたの潔白は、今私の中で完結した」


「それで、チョンを殺したのは誰だったんだ?」


「——それは、国王さ……」


 そんなことを耳に入れず、ジャンは刺されたキャサ姫を見て、大粒の涙を流していた。そんな様子を見て、レギラは「大丈夫です、キャサ姫様は死んではいません」と言った。


「セスタのスキルは『抑圧』。感情的になった人や生物の感情を押さえつけることが可能です。それだけのためにこの屋敷で働いていたのですが、やはりセスタを呼んでいて正解でした。ジャン様が生まれればこうなることは予知していました」


 キャサ姫は「ううう」と言いながら胸に短剣を刺したまま起き上がった。痛そうでもなんでもないようだ。セスタが剣を引き抜いても、血も何も出なかった。それを見て、ジャンは安心したようにさらに泣いた。


「抑圧というスキルは、短剣にスキルを纏って使うので、抑圧を纏ったものは殺傷能力を持ちません」


 レギラはジャンの方を向いた。


「実は、チョンにはあの短剣で刺された跡が付いていました。セスタはチョンを殺していないとすると、剣を使ったのは、セスタの剣の存在を知っている者のみです。そしてその者はベチュの集落にいたのです……」


 ジャンはどういうことか分からなかった。それを代弁するかのようにセスタは口を開いた。


「ほーん、で、チョンを殺したのは国王っていうのは?」


「亡き国王は転生スキルを持っていました。亡くなったあと、どこかに転生したはずです。それが、ベチュ族だったとしたら説明がつきます」


 ジャンも、頭の中で点と点が線になり始めた。


 国王は転生スキルでベチュ族に転生したことによって、チョンの洗脳を解いて独断で行動できるようになった。しかし、ではなぜチョンを殺す?


「国王は勘違いしたのですよ」


 レギラは少し口調が強くなった。


「亡き国王は、ベチュ族に転生したのち、チョンを殺しました。それはなぜかというと、まだ転生できると勘違いしていたからでしょう。転生スキルは一回しか転生できなくても、ベチュ族で認められなければ転生できると思っていたはずです。しかし、認められてしまったのです。それは、このジャン様が、チョンに殺されていたからなんですよ。きっと何度も転生を繰り返して、またこの屋敷に生まれようとしたはずです。女性だけの、自分好みになった屋敷に生まれようとしていたのですよ」


「え、ど、どういうこと、お前、チョンぐらい簡単に説明してくれよ……」


 全員が理解できていなかったが、レギラは構わなかった。


「ジャン様はベチュ族に転生をし、母の存在を確認しています。どんな世界でも、母は自分の子どもを可愛がるものです。自分の息子がチョンに殺されて、そのチョンが誰かに殺されたとすると、母という存在は、認めるでしょう。その誰かを」


……その誰かが国王だったわけだ。


「もう分かりますか。亡き国王は、もう認められております。私たちの過去、国王に何をされましたか。死んでもなお、誰を奪われましたか。分かっているでしょう皆さん」


 レギラは初めて、感情を見せた。


「今、その国王を殺せば、もう終わりなのですよ」


「でも、どう探せば……」


 セスタがそう問うと、扉の方でぐったりしていたビギンはニヤリとした。


「デベチュギラスープは、そのベチュ族の伝統的な飯だ。そのスープを拒むやつがいたら、そいつが国王だろうな」


 不思議と、レギラは口角が少しだけ上がっていた。


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