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プロローグ

 まさか、俺が殺されるだなんて思いもしなかった。俺の人生十九年、まともに話してくれたのは母さんだけだ。友達もおらず、ネットでも友達はできず、年齢を重ねてきただけだった。特技も才能もなければ、それに焦って何か努力するなんてことも考えることはなかった。


 唯一の趣味は読書だった。特に『転生もの』は俺にとって救いのような物語で、俺と同じような境遇の冴えない主人公が、何かしらで死んで転生すると、転生先で稀有な能力を手にして無双する。そんな物語は俺にとって理想で快楽だった。


 イケメンに転生して、目が覚めたら美女が目の前にいて、スキルやらなんやらが強くてヒロインの心を射止める。どんな凶悪なモンスターをも、天才的な発想で倒しぬき、最終的に黄色い声に囲まれて人々に喜ばれる。そんな人生、憧れないわけがない。


 地下鉄のホームは、朝日の光を一切受け入れない。まるで夜かのような暗さ、空気の冷たさ、人の少なさ。そこで冬に支配されたかじかんだ手でスマホを操作して、電子書籍を開く。通学中から、授業中まで、帰宅後もこうして読書をしている。それでしか、もう俺は気持ち良くなることはできなくて、主人公に感情移入しないと、自分は報われない。

 自分でも、惨めな人生だと思う。


 黄色い線より外には出てはいけない。そんなルールをアナウンスされても、イヤホンをしている俺には届かない。分かったように立ち止まって電車を待って、当たり前のように誰かに背を向けている。右の方から電車の光が近づいてくるのが分かるが、ギリギリまでは読書をし続ける。


 スマホを閉じて前を向く。落とされるなんて予想できぬまま。



 ニュースで自殺関連のことを取り上げられていると、人に迷惑はかけないでもらいたいなと思うことがある。電車に飛び込むなんてもってのほかなわけだ。だから、今の俺は死ぬ時でも惨めな人生じゃないかと後悔していた。


 俺はホームから突き落とされた。電車の光に視界を奪われた。


 一瞬だった。痛いよりも、熱い。体の何か所かが熱い。それが痛みで、耐えようとすべての体のエネルギーが奪われて行く。どこかで読んだ、転生ものの始まり方は、トラックに轢かれて即死とか、そんなとこだったはずなのに、なんで俺はこんな目に。俺が何をしたって言うんだろう。誰とも関わらずに、でも母さんへの感謝だけは忘れずに、迷惑をかけずに生きてきたこの人生、最後は迷惑をかけるのか。惨めだ。


 でも、正直微かに祈っていることがあった。奇跡的に一命を取り留めなくても良い。できれば転生してくれればいい。俺の想像通りの、無双できる転生——


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