余韻
戦いは終わったはずなのに、沼地の霧はなお濃く、夜の静寂を乱している。水面には戦いの波紋が残り、微かに赤い光が揺れる。私は深く息をつき、周囲を見渡した。戦いの余韻が、体の奥底まで染み込んでいる。
アレクは、私のすぐ前に立っていた。剣を握る手には力が残り、瞳には戦いの熱が残る。だが、戦場の中で見せた冷静さと勇気、その両方が混ざり合った表情には、どこか柔らかさもあった。彼の強さは、単なる力だけではなく、揺るがぬ覚悟から来ている。
「……無事みたいね」私は小さく呟く。言葉に含まれるのは、冷徹さの影に潜むわずかな安堵。理解できないはずの人間が、今、確かに私の隣にいる。
霧の中から、アミットが元気に飛び出してくる。濡れた髪を揺らしながら、笑顔で私たちを見上げる。彼女の存在は、この夜の緊張を一瞬で和らげ、心に温かさをもたらす。小さな声で、「エノア、大丈夫?」と聞くその仕草は、無邪気で、けれど深い優しさを含んでいた。
私は視線を彼女に向けつつ、心の中で考える。人間は愚かで滑稽だ。しかし、この二人は違う。揺るがぬ覚悟と、絶えない優しさ、そして理解できないが確かな好奇心。戦いの最中で見せた彼らの行動が、胸の奥に熱い何かを刻む。
「……この先、どうなるのかしら」私は静かに言う。声に不安はない。ただ、未来に何が待ち受けているかを思い描くと、心の奥で小さな期待が芽生える。戦いの果てに、私たちは何を得、何を失うのか。
アレクは私の言葉を聞き、剣を軽く下ろす。その瞳には、まだ戦いの余韻が残り、しかし穏やかさも滲む。「君のそばにいる。理解できなくても、そばにいる」と短く言い放つ言葉が、胸に深く響く。
霧の奥で、水面が光を反射し、私たち三者の影を揺らす。戦いは終わったが、ここからが本当の試練なのだ。理解も信頼も、そして未来も、まだ白く濃い霧に包まれている。
私は少し笑う。――戦いは、ただの力比べでは終わらない。心の奥底にある覚悟が、次の物語を紡ぐのだと。
70話完結になりそうです
次回もお楽しみに!




