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霧の果て

霧が濃く、夜の闇がさらに深まる。沼地は静まり返っているはずなのに、水面が小さく波打ち、空気の震えが残る。戦いの熱が、霧に染み込んだかのようだ。私は立ち止まり、視線をアレクに向ける。彼の剣先はまだ光を放ち、揺るぎない瞳が私を見据えていた。


「……貴方、本当に恐れを知らないのね」私は囁くように言う。声に含まれるのは冷徹さの影に潜む、ほんのわずかな好奇心。理解できない人間のはずが、何故か心を掴まれるような気がする。


アレクは笑みを浮かべ、霧を切るように一歩前へ出た。「恐れはある。でも、それより君を知りたい。君を守る覚悟なら、恐れに屈しない」その言葉が胸に突き刺さる。理解不能で、不可解な私の存在に向き合う彼の覚悟。その強さが、私の中の冷たい壁を揺るがす。


霧の中、アミットがぴょんと飛び出してきた。笑顔を絶やさず、両手を広げて「エノア、気をつけて!」と叫ぶ。無邪気さと勇気が混ざったその声に、私は思わず微かに息を漏らす。守るべき者がいるという意識が、私の魔力をさらに研ぎ澄ます。


影の存在が再び姿を現す。灰色の体、光を吸い込む瞳、動きの読めない四肢。沼地全体を駆け巡り、攻撃を仕掛けてくる。私は霧を渦巻かせ、水面を操り、全てを受け流す。アレクはその隙間を縫うように進み、影に斬撃を与える。二人の動きが互いを補い、息を合わせる。


「……面白いわ、人間」私は心の中で呟く。愚かで滑稽で、それでいて真剣。理解できないはずの存在が、私の前で揺るぎない覚悟を示す。アレクの瞳には迷いがなく、ただ私を見つめている。


戦場の中で、アミットの存在も確かに感じる。彼女の無邪気な声と笑顔が、私の心に温かい波を起こす。恐怖も怒りも、戦いの中で交錯する感情が、胸の奥で大きなうねりとなる。


霧の向こう、私たち三者の影が揺れる。剣と魔力、覚悟と無邪気、理解不能と好奇心。全てが交錯する中、私は初めて思う。――戦うだけではなく、理解も信頼も、全てこの夜に結晶するのだと。


水面が波立ち、霧が渦を巻く。血の匂いも恐怖も、全てはこの瞬間のためにある。私は少しだけ笑う。――戦いの終わりは、ただ力の勝敗だけでは決まらない。心の覚悟が、未来を動かすのだ。

次回もお楽しみに!

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