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影の正体

霧が濃く、視界は白い壁に閉ざされている。足元の水面はまだ微かに波打ち、呼吸をするたびに冷たい空気が肺を満たす。


「……影の正体は、何だ?」アレクが低く呟く。声は揺れないが、その瞳には疑念と警戒が混ざっていた。


私は答えない。ただ、手のひらから魔力の波紋を広げる。水面が渦を巻き、霧が光を反射する。視界のどこかで、揺れる影が複数に分かれ、私たちを包囲する。


その瞬間、霧が裂け、影の輪郭が明確になる。

――人間の形をしている。しかし、肌の色は灰色で、瞳には光がなく、動きは不自然。魂の欠片を奪われた者たち、いや、もう人間ですらない存在。


「……ゴーレムか」アレクの言葉に、私は微かに眉をひそめる。普通の人間なら、恐怖で声を失う場面だ。だが、彼は揺るがない。


アミットが私の後ろで、小さく息を詰める。肩越しに視線を送るその仕草が、どこか人間らしい。私は少しだけ心が動く。――無邪気さの裏に隠れた、彼女の強さを再認識した。


「……理解不能な者どもね」私は吐き捨てるように言う。声には冷徹さしかないが、胸の奥では、不意に高鳴る何かを感じた。


影が一斉に動く。鋭く、静かに、しかし確実に私たちを取り囲む。アレクは剣を構え、アミットは一歩後ずさる。


「……行くぞ」アレクの声は低く、覚悟に満ちていた。心の奥底から湧き上がる意志。それは私の魔力の前でも揺らぐことがない。


私は微かに笑む。人間は理解できないと思っていたが、彼は違った。理解できないのに、私を知ろうとするその意志――その強さが、胸を締めつける。


「来るなら、まとめて受け止めるだけよ」私の声が霧に溶ける。手を振ると、水と霧が渦巻き、影を押し返す。だが、完全には止められない。


アミットが小さな声で囁く。「魔女さま……」

その一言で、私は少しだけ気が緩む。恐怖でも、愛でも、憎しみでもない――ただ、彼女の存在が、胸を温める。


影が再び迫る。私たちは三者、呼吸を合わせ、霧の中で一瞬の静寂を取り戻す。戦いの緊張、そして心理の駆け引き――全てが絡み合い、夜の沼地はまるで息を止めたように静かだ。


「……次で決める」アレクの瞳が、私を見据える。

「ええ、そうね」私も頷く。力と意志がぶつかる瞬間、胸の奥で、何かが弾けた。


霧の奥で、影の正体が示す脅威と、私たち三人の絆。夜の沼地は、まだ終わりを告げていない。

次回もお楽しみに!

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