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霧を切り裂く影

夜の沼地は、まだ濃い霧に覆われている。足元の水面は微かに波打ち、足跡すら曖昧に消える。

私は立ち止まり、呼吸を整える。視界の白さに慣れたとはいえ、霧は予期せぬ方向から音もなく動く。それはこの場所で唯一、私の心を乱す不確定要素だ。


「……何かが来る」

心の奥で、そう警告が響く。視覚には何も映らない。だけど、胸の奥の不安が、鋭い針のように刺さる。


その時、霧の奥から小さな揺れが伝わる。

――アミットが、少し後ずさったのがわかった。無邪気な笑顔を保とうとしているが、明らかに動揺している。


「大丈夫、怖がることはない」アレクの声が、霧の向こうから届く。だが、彼の剣先も、僅かに震えていた。私にはわかる――この状況でさえ、彼の心は揺れている。


霧の中に、鋭く光るものが瞬く。刃か、爪か、それとも魔力で形作られた幻か。

一瞬の判断で、私は魔力を放つ。水面が渦を巻き、霧が逆流し、空気が裂けるように震えた。だが、影は一瞬で姿を変え、私の攻撃を避ける。


「……面白いじゃない」低く囁く声に、思わず肩が強張る。人間ではない、何か異質な存在。だが、この感覚は――懐かしい。過去の戦いの記憶が、胸の奥でざわつく。


アミットが小さく叫ぶ。「気をつけて!」

その声に、私の心が一瞬揺れる。無邪気な彼女が、恐怖で声を上げる――こんな光景、今まで見たことがない。胸の奥の何かが締め付けられる。


アレクは一歩前に出た。霧を裂き、影に向かって剣を構える。

「……逃がさない」彼の目は揺るがない。理解不能な人間のはずなのに、この瞬間、私の心は揺れる。彼の覚悟が、私の理性を少しだけ崩すのだ。


影が突如、複数に分かれた。霧の中で、私たちは孤立し、三者の距離が微妙に変化する。アミットは私の後ろに隠れ、アレクは私の横に立つ。

――互いの存在が、戦う盾であり、同時に心の拠り所になる。


「……私たち、逃げる?」アミットの声が、震え混じりに聞こえる。

私は首を振る。逃げる理由はない。恐怖も、過去も、全て受け止めるのが魔女の役目。だが心の奥で、久しぶりに不意打ちの高鳴りが響いた。


霧が渦を巻き、影が迫る。水面に映る光と影が、戦場の緊張をさらに増幅させる。

「来い」私は低く言った。声は冷徹だが、胸の奥では、不思議と期待が混ざる。今夜、何かが変わる――そう感じていた。


霧の奥で、三者の運命が交差する。恐怖、覚悟、そして微かな心の揺れが、夜の沼地で混ざり合う――。

次回もお楽しみに!

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