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沈黙

霧はまだ濃く、沼地の奥に立つ私たちを包み込む。夜の冷たさが肌を刺し、湿った空気が胸に絡みつく。戦いは終わった――はずだった。けれど、静寂の中で胸の奥がまだざわついている。鼓動が、霧を震わせるように響いた。


アレクは少し離れた場所に立ち、剣を下ろすでもなく、ただ私を見つめていた。その瞳には恐怖も迷いもない。理解できない人間――と思っていたはずの彼の目は、ただ私を捉え、静かに息を潜める。


「……もう、終わったか」私の声は、戦いの余韻とともにかすれ、冷たさの中にわずかな緊張が混ざる。


「……ああ」彼の声も低く、しかし確実に響いた。「だが、君のことを理解しようとは、思わない。理解は必要ない。ただ、そばにいたいだけだ」


その言葉に、心の奥で何かが揺れた。理解を求めない――それでも、私の存在を受け止める覚悟。魔女として、これまで人間の愚かさや欲望に翻弄され、誰も信用しなかった私に、初めて向けられる真正面の意思。


私はわずかに息をつき、霧の中を見渡す。視界は白く閉ざされ、夜の闇と霧が混ざり合い、まるで世界から隔絶された舞台のようだ。その舞台で、彼は私の存在を確かめるかのように、ゆっくりと一歩を踏み出す。


「……なぜ、そこまでして」私の声に、微かに苛立ちと戸惑いが混ざる。理解できない人間、恐怖の対象、ただの願いの媒介――私の認識では、彼は本来なら近づく価値すらない存在のはずだ。


だが、胸の奥は妙に高鳴る。剣も魔力もなく、ただこの距離で交わされる視線だけで、心の奥に熱が広がる感覚。


「……君が、魔女だからだ」アレクはそう答えた。短い言葉に、揺るぎない決意が込められている。「人間には理解できないその存在に、俺は惹かれる」


その瞬間、霧の中で私は立ちすくむ。戦闘も契約も、全てを超えて、この男は私の核心――魔女としての孤独や、誰にも理解されない存在――に触れようとしている。


視界の霧が揺れ、二人の影が重なる。冷たさと湿気の中で、鼓動だけが確かに響いた。理解できない人間。それでも、彼は私のそばに立つ。


胸の奥に湧き上がる感情を押さえつつ、私は心の中で静かに、だが確実に――新たな一歩を踏み出す準備をするのだった。

次回もお楽しみに!

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