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戦い

戦いが終わった。

霧は少しだけ薄れ、月明かりが水面に反射して揺れる。夜の静寂の中、二人だけがその場に残されている。


私は立ち止まり、深く息をつく。腕や肩に残るわずかな疲労よりも、心の奥にずっしりと重い感覚がある。戦闘中、彼の瞳を見た瞬間、理解できないはずの人間に心を揺さぶられた。理性では理解できない感情だ。だが、心が静かに、それでいて確実に動かされたことは確かだ。


アレクは、私の前で倒れもせず、怯えもせず、ただ立っていた。力で押し返せるはずの状況で、彼は一歩も引かず、私を見つめていた。その瞳の奥にあったもの――恐怖の欠片もなく、純粋な「知りたい」という意志。――それを見た瞬間、私は思った。人間に理解を求めるのは無意味だと。けれど、彼はその理解の外側に、何か特別なものを持っている。


視線を交わす間、言葉は必要なかった。魔力と剣が交錯する緊張の中で、お互いの存在を認めることで、すでに何かが確かに動いている。心の奥に潜む孤独や恐れ、覚悟の重さが静かに響き合った。


彼は少し笑みを浮かべ、言った。「怖くなかったわけじゃない。けど、君の前では、引くわけにはいかないんだ」

その声に、私は少しだけ胸を刺されるような感覚を覚える。覚悟を見せるのは私だけのものではない。彼もまた、自分なりの戦いと決意を抱えていたのだ。


水面が揺れ、霧が風に揺れる。夜の冷たさが肌を撫でる中で、私たちは互いに立ったまま、しばらく言葉を交わさずにいた。戦いの余韻が、心の奥底に静かに残っている。

その静けさの中で、私は初めて感じる。「彼は、人間である以上に、特別な存在かもしれない」と。理解できないはずの人間を、ただの幻ではなく、私の目の前で動く意志として感じることができたのだ。


霧がゆっくりと私たちの間に漂う。足元の水面に、二人の影が揺れる。その影が、ただの偶然の重なりではなく、心の奥で何かを繋いでいることを、私は知っている。

戦闘が終わり、魔力が静まった今でも、心の奥の緊張は解けずに残っている。だが、それは恐怖ではない。むしろ、これから何かが始まる予感のような、静かで確かな震えだった。


霧の中で、私は微かに笑った。人間を理解できなくても、彼を理解したいと思う。戦うことでしか交わらなかった距離が、今、少しずつ近づいている。

次回もお楽しみに!

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