ぁぁ
霧の奥で、水面が不気味に光る。私の魔力が渦を巻き、刃のように鋭く形を変える。霧の壁が突如、アレクの前に立ちはだかる。しかし彼は一瞬も躊躇せず、剣を握りしめ、笑みを浮かべてその渦へ踏み込む。水が砕け、霧が裂け、空気が歪む。私の魔力は、彼を押し返すためのものではなく、彼の意志を試すためのものになった。
「……覚悟はあるんだろう?」
彼の声には揺れがない。冷徹な私の魔力を前にしても、恐怖の影はない。剣の先端が水の渦を切り裂き、霧の壁を割って進む。その姿は、まるで人間離れした勇者のように美しく、強靭だ。
私も負けじと魔力を解き放つ。霧が渦を巻き、夜の沼地が光と影の戦場に変わる。水の壁が一度に襲いかかり、無数の刃がアレクを取り囲む。しかし、彼は微動だにせず、笑みを絶やさずに前進する。ひとたび目が合えば、その瞳には迷いも恐怖もなく、ただ私だけを見据えている。
「理解なんて求めない。ただ、君を知りたいんだ」
その一言で、私の胸は締めつけられる。人間を一生理解できないはずの私が、彼の言葉に心を揺さぶられる。冷徹な魔女としての理性が、わずかに崩れる瞬間だ。
次の瞬間、渦巻く水と霧がアレクの前に集まり、刃となり彼を押し返す。だが彼は踏みとどまり、逆に私の魔力に向かって一歩踏み込む。そのたびに、水しぶきが夜空に舞い、霧が光を反射して二人を照らす。緊張と危険が入り混じり、戦場全体が生き物のように蠢く。
「……だからいいんだ。理解できなくても、俺は君のそばにいる」
その言葉が、胸に深く刻まれる。戦いの最中で、心の奥底に熱が流れる。魔女としての冷徹さと、人間への不思議な信頼、揺れる心が渦巻く。剣と魔力が交錯する中、私たちは互いの覚悟を確かめ合う。
霧が静まり、波紋が水面に残る。血の匂いは消え、夜の沼地に二人だけの世界が残った。胸の奥で熱く、冷たく、そして静かに燃える感情。互いに引かれ合いながらも、まだ言葉は交わされない。だが、その緊張の中に確かな予感がある――これから、私たちの物語は新たな段階へと動き出すのだ。
次回もお楽しみに!




