揺れ動く
霧の向こうに立つアレクの姿が、微かに赤く夜に溶けている。
私は魔力を解き放ち、沼地の水面が渦を巻く。水の壁が彼の動きを封じるはずだったが、彼は一瞬の躊躇もなく踏み込む。
「……覚悟はできてるんだろ?」
剣先を構えながらも、声には揺れがない。まるで、私の魔力も彼の意思の前ではただの飾りのように思える。
私は瞬間、霧と水を操り、攻撃を仕掛ける。水が渦巻き、霧が光を反射し、沼地全体が戦場に変わる。しかし、アレクは動揺せず、笑みを浮かべながらその間を縫うように進む。
「理解なんて求めてない。ただ、君を知りたいんだ」
その言葉に、私の心が瞬間、揺れる。理解できない人間のはずなのに、何故かその言葉が胸を締めつける。
「……人間は、一生理解できないものよ」
私は吐き捨てるように言い、魔力を最大まで解放した。霧が渦を巻き、水面が光を反射し、圧倒的な力でアレクを押し返す。だが彼は、力に屈せずに踏みとどまる。
「……だからいいんだ。理解できなくても、俺は君のそばにいる」
その瞬間、私の胸に熱いものが流れ込む。戦いの緊張と共に、心の奥底で何かが崩れるような感覚。魔女としての冷徹さと、アレクへの揺れる感情が混ざり合う。
剣と魔力が交錯し、夜の霧が二人を包む。だが、戦いの中で彼の瞳を見ると、迷いも恐怖もなく、ただ私を見つめる強さがある。
私は少しだけ微笑む。戦場の中でも、互いの覚悟が互いを理解する唯一の手段だと感じたから。
「……覚悟は、貴方が持つべきものね」
その言葉に、アレクは微かに頷き、霧の中で二人の影が揺れる。戦いの緊張と恋心が絡み合い、夜の沼地は二人だけの世界になった。
次回もお楽しみに!




