心の揺れ
霧が深く、夜の沼地はまるで別世界のように静まり返っていた。
だが、その静寂は長くは続かない。
「――ここまでか、と思ったかしら?」
私、エノアは薄く微笑みながら、霧の中で視線を光らせる。水面が波打ち、影が揺れるたびに、魔力が指先から迸る。
突然、霧の中から鋭い気配が飛び込んできた。
「ここにいるのは誰だ!」アレクの声が夜を裂く。
彼の瞳には、決して怯まない強さと、どこか私を見守る柔らかさが混ざっていた。
その瞬間、霧が切り裂かれるように光が走り、私たちは互いの存在を確認する。
「――逃げられると思った?」
私の言葉に、アレクは苦笑を浮かべながら反応する。
「いや、むしろ面白そうだから来たんだ」
軽やかな声と共に、彼の剣先が空を裂く。
私は霧と水を操り、攻撃を交わす。水面が瞬時に渦を巻き、彼の剣筋を封じる。だが、攻撃のたびに微かな火花が散り、夜の空気が震えた。
「……やっぱり人間は理解できない」
心の中で呟く。だがその瞬間、アレクの目が私を見据え、微かに笑う。
「理解しなくていい。大事なのは、君がそこにいることだ」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。戦いの最中でも、心が揺れる。
霧の中で、私たちは互いに剣と魔力を交わしながら、言葉を交わす。
一撃一撃に心がこもり、互いの存在が強く意識される。
そして最後、私の魔力が渦を巻く中、アレクは一歩前に踏み出した。
「覚悟はできてる。だから、俺は――」
その言葉に、戦場の緊張と恋心が交錯する。
霧の向こうで、水面に映る彼の姿が、かすかに赤く染まった夜空に溶けていく。
次回もお楽しみに!




