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夜の沼地は、静寂に包まれている。霧が重く、視界はほとんど閉ざされていたが、私の足取りは止まらない。アレクの手を握りながら、前に進む。彼の覚悟は確かで、迷いは微塵も感じられない。その手の温もりが、私の孤独を少しだけ溶かす。
「……あなたは、本当に変わらないわね」
私の言葉に、アレクはくすりと笑う。言葉少なに、しかし強い意志を宿したその笑顔に、私の心は少し揺れた。人間の感情を、魔女である私が完全に理解できるわけではない。それでも、この夜の空気の中で、彼の存在は確かに重く、温かいものだった。
霧の向こう、微かに水面が揺れる。魔力を帯びた手を振ると、小さな波紋が広がり、霧が渦を巻く。私はその力で、周囲の異変を瞬時に察知する。だがアレクは怯えず、静かに、しかし着実に私の隣に立つ。彼の覚悟が、目に見えない形で私に伝わる。
「……人間が、ここまで変われるなんて」
私は心の中で呟く。かつて、世界から忌み嫌われ、恐れられた私が、今、誰かの隣で歩むことになるとは思わなかった。願いを叶える魔女として、代償を求める存在として、私は常に孤独だった。だが、今、この手の温もりが、私に新しい感覚をもたらす。
霧は深いまま、しかし私たちの前には微かに光が差し込む。アレクの瞳に映る私の姿は、恐怖でも憎悪でもなく、ただの存在として受け入れられている。それだけで、私は満たされる気がした。
「……行こう」
その声に、私は小さく頷き、霧の奥へと進む。人間と魔女、理解できないはずの感情を抱えながらも、互いに信頼を交わす二人の姿。夜の沼地に、静かな決意と希望が満ちる。
今日も、願いの代償を受け入れながら、私は誰かと歩む未来を知ったのだ。
次回もお楽しみに!




