04
沼地から戻った翌朝、俺は目を覚ました。
身体は動く。
痛みもない。
昨日までと、何も変わらないはずだった。
――それなのに。
外に出た瞬間、胸の奥がざわついた。
村は、いつも通りだった。
人が歩き、声が飛び交い、朝の匂いがする。
なのに、俺だけが浮いている。
誰かとすれ違っても、視線が合わない。
合っても、すぐに逸らされる。
「……俺、いたよな?」
自分でも情けない独り言だった。
市場の端で、昔からの知り合いを見つけた。
声をかけようとして、足が止まる。
あいつは、誰かに囲まれて笑っていた。
昔の俺より、ずっと前に進んだ顔をして。
胸の奥が、きゅっと縮む。
――置いていかれている。
それだけじゃない。
俺は、最初からそこに並ぶ資格がなかった気がした。
失敗して、諦めて、何も掴めなかった自分。
だから、魔女に縋った。
「……ずるいよな」
自分に吐き捨てる。
努力した者たちの輪に、
契約一つで割り込もうとした。
それなのに、結果はどうだ。
誰からも見られず、
誰とも比べられず、
ただ、劣等感だけがはっきり残る。
胸の奥で、何かが軋む。
あの青い目が脳裏をよぎった。
――あなたの命は、もうあなたのものではない。
「……だから、か」
納得したくなかった答えに、
無理やり意味を与える。
命を差し出したのに、
何も得ていない気がする。
いや、違う。
得られなかった自分だけが、
はっきり浮き彫りになったのだ。
こつり。
背後で、あの音がする。
振り返らなくても分かる。
見えないヒール。
「……見てるなら、言えよ」
声は震えていなかった。
その代わり、惨めだった。
「俺は、間違ったのか?」
答えはない。
ただ、くすり、と笑う気配。
それは嘲りでも、慰めでもない。
――評価だ。
その瞬間、俺は理解した。
俺はまだ、生きている。
だが、他人と比べるための土俵からは降ろされている。
だからこそ、劣等感だけが消えない。
逃げ場のない、静かな劣等。
それを抱えたまま、
俺は次の朝を迎える。
次回もお楽しみに!




