表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/70

そのままで

霧はいつも通り、沼地を覆っていた。

白く、冷たく、境界を曖昧にするこの霧は、私にとっては空気と同じだ。だが人間たちは違う。この場所に立つだけで、心拍が乱れ、思考が濁る。


アミットは、少し離れた場所に立っていた。

足元の泥に気を取られるでもなく、霧に怯えるでもなく、ただ黙ってこちらを見ている。その視線には、迷いと決意が同時に混じっていた。


私は彼女を観察する。

感情の揺れはわかる。だが、その理由までは掴めない。


人間はいつもそうだ。

合理でも本能でも説明できない選択を、当然のように選ぶ。


「……変だよ、あなた」


不意に落とされたその言葉は、刃にはならなかった。

責める調子でも、笑う調子でもない。ただ、事実を述べるような声音。


私は首を傾げる。

変だと言われたところで、何が変わるわけでもない。理解されないことは、魔女にとって日常だ。


それでも――

アミットの表情は、どこか痛みを含んでいた。


彼女は私を否定したかったわけじゃない。

私を正したかったわけでもない。

ただ、自分の中に生まれた違和感を、言葉にせずにはいられなかったのだろう。


アレクは何も言わない。

彼はいつもそうだ。選択の場面では、沈黙を選ぶ。それが彼なりの誠実さだと、私はもう知っている。


「理解できないものを、理解しようとするのは無駄よ」


そう言ったつもりはなかった。

口に出たのは、ただの事実だった。


アミットは一瞬、目を伏せる。

そして、ほんの少しだけ笑った。


その笑みが、優しさから生まれたものだと、私はまだ知らない。

知ろうとも、していない。


魔女は人間を理解しない。

理解できないからこそ、願いを叶え、代償を喰らう。


霧が濃くなる。

視界の向こうで、人と魔女の境界が、また一つ曖昧になっていく。


それでも世界は続く。

噛み合わないまま、それぞれの選択を抱えて。


私は今日も、沼地に立っていた。

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ