変だよ
霧の中で、言葉はいつも遅れて届く。
意味だけが先に落ち、音があとから追いつく。
三人が同じ場所に立っている。
それだけは確かだった。
「……変だよ」
最初にそう言ったのは、アミットだった。
声は震えていない。
責める響きもない。
ただ、事実を並べるみたいに、軽かった。
私は視線を向ける。
彼女は私を見ていない。
それでも、その言葉は確実に私に向けられている。
「魔女ってさ、もっと――こう……」
言葉を探して、途中でやめる。
人間は、説明できないものに出会うと、必ず言葉を失う。
「願いを叶える代わりに、何かを奪うんでしょ?」
「だったら、もっとはっきりしてた方がいい」
アレクは何も言わなかった。
止めもしない。
肯定もしない。
それが、彼の選択だった。
「なのに、あなたは違う」
「奪うくせに、突き放さない」
「助けるくせに、救わない」
霧が、わずかに揺れる。
私の魔力に反応したわけではない。
空気が、人間の感情に引きずられただけ。
「それって……変じゃない?」
変。
その言葉は、人間にとって便利だ。
理解できないものを、
敵にも味方にもせず、
ただ遠ざけるための言葉。
私は少しだけ考える。
否定する理由も、肯定する理由も見つからない。
「……そうね」
肯定した瞬間、アミットがわずかに目を見開く。
「変よ」
「一貫性がない」
「優しくないのに、冷たくもない」
それは批判だったのか。
それとも確認だったのか。
私には区別がつかない。
「魔女は、人間の理解に合わせる必要がないもの」
そう告げると、今度はアレクが微かに息を吸った。
「でもさ」
アミットは続ける。
「理解できないって、怖いよ」
「怖いけど……だからって、離れなきゃいけない理由にもならない」
まただ。
理由のない選択。
会話は続いているのに、
意味だけが噛み合わない。
アレクは、私を見る。
アミットは、彼を見る。
私は、その両方を見ている。
三人とも、同じ霧の中にいるのに、
立っている場所はまるで違う。
「あなたは変」
「でも、それでいいと思う」
そう言って、アミットは笑った。
理解していない笑顔。
納得していない肯定。
私はその瞬間、確信する。
次回もお楽しみに!




