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霧の夜が、いつもより濃く私を包む。水面に映る月はぼんやりと揺れ、夜の静寂が支配する沼地で、私はただ立っていた。緑の髪が霧に溶け込み、紫の瞳が闇を切り裂く。魔女として、今日も願いの代償を目の前に見つめる。


「……まだ来たのね」


独り言のように呟きながらも、心の奥で、少し期待している自分に気づく。遠くで水を蹴る音。霧を裂くように近づく気配。私の魔力が微かに振動し、霧が渦を巻く。


その瞬間、姿を現した彼――アレクシオン・カリス・フェルド・エノデンドラド。長い名前はまだ名乗らないが、私は内心で苦笑する。チャラく陽気な動きに紳士的な眼差し。何も怖がらず、私の魔力の圧に向かってくる。


「……お、お前、まさか本気でかかってきたのか?」


彼の声は少しだけ震えている。しかし、その笑顔は揺るがず、私の紫の瞳を見つめる。その瞳に、ふと心を奪われる自分がいた。私の魔力が渦を巻き、霧を舞い上げる。水面が跳ね、夜の静寂が砕ける。


「ふふ……面白いじゃない」


魔力を強める私に、彼は身を翻しつつ、軽く口角を上げる。その瞬間、胸がざわつく。あの笑顔――ただのクズ男ではない。少しの勇気と紳士らしい所作が、私の心の奥に触れる。


「……ま、まさか、俺、こんな気持ちになるなんて」


霧の中で呟く彼の言葉が、私に届く。恋心――いや、初めて見る人間の心の真っ直ぐさ。魔女としての私の冷徹さは微かに揺れる。緑の髪が霧に揺れ、紫の瞳がほんのわずかに柔らぐ。


「……覚悟はあるのね」


私の言葉に、彼は小さく頷き、冗談めかした笑いを浮かべる。しかしその眼差しは真剣で、紳士的。私の魔力と彼の心が交錯する夜――恋の芽生えは、静かに、しかし確実に動き出した。


霧の奥で、私は微かに笑う。願いも恐怖も、そして、未知の恋心さえ、まだこの手の中にある――今日も、この夜も、まだ終わらない。

次回もお楽しみに!

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