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霧はまだ深く、沼地は昨日よりも冷たく湿っている。

私は歩を進める。緑色の髪が霧に揺らぎ、紫の瞳が淡く光る。白い肌に霧が絡むたび、その輪郭は儚く、まるでこの世に属さぬ幽霊のようだ。


「……飽きた、わけじゃない。」

心の中でつぶやく。だが、皮肉なことに、私の退屈は人間たちの必死さを生み出す。小さな生き物たちは、自らの命を賭けて希望を求める。私はそれを見守り、時に遊ぶ。


水面の霧を指先で裂くと、黒い渦が足元に立ち上がる。逃げ惑う人間たちの視界は曖昧で、恐怖だけが鋭く胸を刺す。ある者が刀を振るうが、間に合わない。私は影のようにその背後に現れ、冷たい囁きを耳元に落とす。


「希望を求めるのなら、代償も承知しているのよね。」


声に笑みを含ませる。恐怖の中に、わずかな甘美さを混ぜるのが好きだ。若者たちは理解できない。理解する必要もない。彼らは私の遊戯の駒であり、私はそれを楽しむ。


ふと霧の向こう、遠くでひときわ異質な気配を感じた。

──人間。だが、ただの人間ではない。


背筋に微かな震えを覚える。私はゆっくりとその気配の方に視線を移す。

影の中に現れたのは、アレクだ。緑の霧に包まれる私の姿を、彼は何も知らずに近づいてくる。彼の瞳には恐怖よりも好奇心が光る。だが、私は笑みを浮かべる。


「……面白い。」

独り言のように呟く。人間の小さな勇気は、私の心を少しだけ刺激する。

それは、飽きていたはずの私が、ほんのわずかに心を動かされる瞬間。


霧を揺らし、水面に光を走らせる。アレクの足元に波紋が広がる。

彼は避けるでもなく、ただじっと私を見上げる。人間という生き物の中に、こんなに無垢で大胆な存在がいるとは──。


「──次はあなたの番ね。」

私の声は甘美で、危険に満ちている。

戦いではない、試すだけ。彼がどこまで踏み込むか、どこまで恐れを克服するか。


沼地の霧が揺れ、私の影が長く伸びる。

今日もまた、願いの代償を前に、私は遊ぶ。

世界は私の掌の中、全ては私の目に映る。

次回もお楽しみに!

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