魔女のおとぎ話
あなたは、覚悟がありその道を選ぶのですね。
遠回りでも、他に良い道があったとしても.....
俺には、頼るものが何もなかった。
金もなく、相談できる相手もいない。気づけば、いつの間にか外に出ていた。
この村は相変わらず、好き勝手に生きている。欲深く、罵声や悲鳴があちこちから響く。
誰もが、魔女を憎み、話し合い、世界を絶望に変えようとする――
その魔女こそ、この村の唯一の希望であり、同時に絶望でもある。
魔女の住む沼地は、この場所から遠くない。
子供や若者たちの度胸試しの場所としても知られるが、昼間に限ればただ霧の濃い沼でしかない。
本当に恐ろしいのは、霧の向こうに魔女など存在しないかもしれないという事実だ。
そこへ踏み込んだ者が、何を見て何を失ったのか――誰も語ろうとしない。
だから、事実の代わりに噂だけが残り、恐怖が形を変えて村を覆っている。
俺は背後を振り返る。罵声も悲鳴も、もう耳に届かない。
恐ろしいほどの静寂。
頼るものがない――その事実が、ここでは妙に軽く感じられる。
誰からも期待されず、失うものがないのだから。
ならば進むしかない。
霧の向こう、曖昧な噂の奥へ。
湿った空気が犬の吐息のように肌にまとわりつく中、足を踏み出す。視界はすぐ白に閉ざされ、前も後ろもわからなくなる。止まる理由はない、むしろ止まること自体が恐怖だった。
静寂の中、ぴちゃり、と水を踏む音。俺のものではない。立ち止まると、音も止まる。歩き出すと、また返ってくる。――か・ら・か・わ・れ・て・いる。
「…誰だ」
声をかける。返事はない。代わりに、近づくヒールの音。沼地には似つかわしくない、乾いた規則正しい音。
「場違いな対応ですわね」
囁くような声、楽しげな色が混ざる。肌に触れるほど近く、距離は確実に縮まる。
「資格がない、見えない――そんな言葉で人を引き返すと思う?」
俺は霧の奥の影に向かって言った。
「見えなくてもいい。最初から、お前の姿に興味もないし、何も持っていない」
「…ええ、結構」
耳元で囁かれたその声は、冷たくも楽しげだ。
そして、静かに決まる。
霧の中で、何かが確かに“契約された”気がした。
「俺の願いは――」
その先に何が待つのか、まだ誰も知らない。
ただ一つ確かなのは、ここから先は、もう後戻りできないということだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回も楽しみに!




