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死んだ姉の婚約者はわたくしのものに

作者: 満原こもじ

 姉のデイジーは素行が悪いと言われていたのですよ。

 化粧が濃いの歓楽街で見かけたの男と腕を組んでいたの。

 でも姉は最初、全く気にしていませんでしたわ。

 他人の空似だ、わかる人にはわかるって。


 放っておけば消える、触らない方がいいと思っていたのでしょうね。

 ところが段々そうした噂が広がってきたのですよ。

 知らんぷりしていた姉も困惑気味で。

 ……わたくしはカラクリを知っていましたけれど。


 父は言うのです。

 お前達淑女らしくないぞ、クレイン男爵家の恥だと。

 どうしてわたくしにまで言うのでしょうか?

 まあ両親も共犯者みたいなものですから。


 クレイン男爵家に子供は二人。

 姉のデイジーとわたくしアミティだけでした。

 姉は大変優秀で数々の学問を修め、クレイン男爵家を継ぐ者として領主教育にも余念がありませんでした。

 とても期待されていましたね。


 対するわたくしアミティは甘やかされ放題で。

 幼い頃身体が弱かったこともあるのでしょうけれどもね。

 ええ、お姉様はかなりストレスが溜まっていたのだと思います。

 わたくしは好きにやらせてもらっていましたよ。


 いつの頃でしたかね。

 ああ、わたくしアミティの背の高さが姉とほぼ同じになった時ですか。

 メイク次第で姉そっくりに化けられると知ったのは。

 いたずら心が湧きました。


 姉の格好で遊び回るようになって。

 ああ、何て楽しい毎日だったことでしょう!

 姉も自分の知らないところでモテモテだったとは知らなかったですね。

 悪評に裏があることにはいつ気付いたのでしょうか?


 ふしだら令嬢デイジーの正体が妹アミティと疑う者は、少なくとも家の外にはいませんでした。

 クレイン男爵家を継ぐ優秀な姉ほど、わたくしの存在は知られていませんでしたから。

 悪評は全て姉に押しつけておけば、わたくしにデメリットはありませんでした。

 家の者の目を盗んではアバンチュールの毎日で。


 自分の外面をよくするくらいの知恵はありましたとも。

 わたくしだって嫁入り先がなくなると困りますものね。

 逆に言えば姉の評判がどうなろうと、いずれ家を出る身にとってはあまり関係がなかったのです。

 ……優秀な姉に対する嫉妬も少しはあったのかもしれませんね。

 今となってはわかりませんが。


 ところで姉デイジーには婚約者がいたのですよ。

 ヒギンズ男爵家の四男トレヴァー様という令息で。

 トレヴァー様がまた実直で頼り甲斐のある方と申しますか。

 男は顔じゃないというのを体現するような殿方で(失礼)、姉とは大変仲がようございました。


『デイジーが遊び回っている? 尻軽の男狂い? ハハッ、そんなことがあるわけないじゃないか』


 トレヴァー様は噂を全然信じていませんでしたね。

 それはそうだと思います。

 姉は勉強が忙しく、また将来の領主としての顔繫ぎのためにあちこち出かけていました。

 遊ぶ暇などほぼほぼなかったですから。


 ところが……。


『デイジーが死んだ?』


 顔を潰された令嬢の死体が発見されたのです。

 王都でも裏町のあまり治安のよくない地区で。

 姉が遊び回っているとされていた場所ではありました。


『確かに当家の長女デイジーです。間違いありません』


 両親とわたくしが確認いたしました。

 母の目には涙がありました。

 クレイン男爵家の名を汚しおってと、父はぶつぶつ言っていましたけれどね。

 こうして姉のデイジーは、公式には亡くなったことになりました。


 そして今。

 わたくしはトレヴァー様とお茶会です。


「一段落かい?」

「一段落ですね。お葬式も片付きましたし」

「僕にとっては何も変わらないのだけど」


 アハハウフフと笑い合います。

 ええ、心から笑えるようになったのです。


 トレヴァー様は妹アミティの婚約者となりました。

 もとい、わたくしアミティの婚約者となりました。

 そう、トレヴァー様の仰る通り、何も変わらないのですけれどもね。


「君の妹は僕にまで色目を使ってきたんだよ」

「わたくしは姉の婚約者にまで色目を使っていましたか」

「ああ、そうだ。今の君はアミティだったな」


 再びの笑い。

 ええ、わたくしはアミティになり替わりました。

 だってわたくしもメイク次第でアミティそっくりになれるのですもの。

 デイジーは評判が悪過ぎましたからね。

 デイジーの悪評を払拭しようというのは、効率がよろしくなかったのです。


 両親もトレヴァー様も同じ考えでしたね。

 以心伝心と言いますか、何も言わなくても意見が一致したのです。

 つまり醜聞を全て亡くなった姉ことデイジーに擦りつけることにして。

 実際にはただの因果応報だったのですけれど。


 特にトレヴァー様は実家からデイジー嬢と別れろと言われていたらしく。

 面倒な立場に立たせてしまっていたのですね。

 申し訳なかったです。

 かくしてデイジー・クレインの芳しくない評判は、一つの遺体とともに葬り去られることになったのです。


「トレヴァー様はずっとわたくしを信じてくださいましたものね」

「自分で納得できないことは認められない。それだけだよ」


 うふふ、男らしいですね。

 素敵です。

 少し体重をトレヴァー様に預けます。

 わたくしだって甘えたいことはあるんです。


「で……アミティ、愛しているぞ」

「もう、ついでみたいに」

「ごめんごめん」

「わたくしもですよ。お慕い申しております」


 一件落着という思いが強いのは気のせいでしょうか?

 わたくしに化けて悪さをしていた恥知らずの死因ですか?

 撲殺ですけれども、犯人は見つかっていないのですよ。

 父にもわたくしにもトレヴァー様にも動機はありましたけれども、ね。

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こちらもよろしくお願いします。
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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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― 新着の感想 ―
うわー!この後お話もすごいぃぃー! 2回目読み返すと、確かに『そう言う文章』なんだって分かる どんでん返しが素晴らしかったです こもじ先生のお話、なろう界隈では珍しく?姉妹仲良い話が多くてそちらも…
悪評撒かれた姉とその婚約者は分かる 製造者の両親はどの面すぎる バレずに外出できるあたり、表面上可愛がっているだけで、お付きの一人もいないってことだし
アバズレ妹ちゃんは、なぜ殺されるのか最後の瞬間まで分からなかったのでしょうか。 もしかしたら、本当の犯行現場は歓楽街ではなく、叫んで助けを求めたり逃げ出さないように、妹を男爵家の地下室へでも閉じ込め…
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