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02 「主人公レンジはそろそろ行く」

 「そろそろ、行くか」


 ここはまだ神界。一度地上に降りたら戻って来られない鉄則がある。


「そりゃそうだろうな。もう誰も居ない。独りぼっちだ。

 何が因縁なのかといえば、俺のスキルと課せられた役目の話だ」


 これは仕事だ、天から俸禄は出る。要するに今世でもサラリーマンだ。


「けど問題は、そこじゃない」


 翼竜がレリーフとなっている平らな台座の上へと歩を進める。

 人が一人立つだけの範囲の台座はまるでミニチュア模型の岬で神殿から外の空へ突き出ている。

 そこへ立ち、眼下を眺める。

 

「取りあえず降りて作業に取り掛からないと」


 光を失くした地上の険悪な様相がまるで暗黒世界に映る。

 上空から見えた広大な世界のどこかの国。その場所へと降り立った。別にそのまま高所から飛び降りた訳ではない。片道一度きりのファストトラベル。「転移魔法陣」というものを利用し、安全に地上へ降りた。


「誰の姿もなく気配さえも感じない。完全に焦土と化していて生臭い!」


 そうなのだ、これは戦だ。

 そこは繰り返された人類と魔物の戦闘の痛々しい爪痕が残る跡地なのだ。

 焼け崩れた地に足を踏み入れる。未だ灰塵の舞い上がる黒歴史がそこに。灰をかぶった建物の残骸からは酸素が息絶えていく様に減少傾向にある。


「強烈な瘴気に自然の摂理が握り潰されているかのように」


 火の燃焼には酸素が必要。進行すると空気が消費されて酸素濃度が低下する。

 12%未満は筋力低下を起こし、8%未満なら失神または数分で死に至る。

 野ざらしの遺体の山は腐敗が進んでいた。国家人類はこの地を見捨て逃げ出した模様。人も魔物も骨と異臭という生ゴミとして転がる。

 死骸の割合は人間7:魔物3で、人間側は数百の犠牲を払った様だ。


 散らばった人骨を回収して瓦礫を砕いて──先ずは土地の大掃除からだ。



 それはそうと異世界の通貨の価値は不思議で前世とほぼ同一だ。

 60万GR(グラン)をすでに受け取っている。グランは紙幣だ。

 1万グランを60枚所持。

 それは、この世界についての講習を真面目に受けた報酬だった。ものを教わって報酬まで支給してくれるとかマジで神!

 日本円に換算すると60万円ぐらい。生前よりも色を乗せてくれた感じ。それは悪くない。そういったことも含めて色々知るための講習だった。



「作業はすべて魔法で行うんだったな……ほとんど疲れないけど。力仕事は嫌いだったから、じつはこれが一番嬉しいかも」


 目の前に明かりがともる思いだ。

 

 俺の仕事は、土壌の浄化と再生。

 この場に元々あった鉱脈や植物それに水脈などを復元するのが日課だ。

 再生、創作、どれもクラフト系の魔法具を使用する。

 しかし難しいことなど何一つない。それに必要なクラフト魔法は全て習得済みだ。

 役目は【緑化】をするだけなのだ。


 俺は神界より「【緑化】運動の環境治療士」として選ばれたのだった。


「土地を蘇らせ、森林、湿地帯等を再形成していくだけでいい」


 戦闘をするのは地上の生き物たち。俺ではない。

 半生を植物状態で生きた人生だった俺が願ったことは、奪う側ではない。

 でもまさか環境再生の手伝いをする治療士になるとは思いもしない。


 その役目の話を聞いた時は本当に嫌気が差したものだ。


「だって──俺が焦土を健康にしたら、また彼らは奪い合うのだろ?」と。


 事故死であろうと戦死であろうと、その空虚感は何も変わらない。

 土地の再生も似たようなものだ。戻してもまた焦がされて異臭を生むだけと。


 だが女神は俺に、こう説く。


『きみがやらなくとも、担当者は他にいくらでもいるから、ね?』と。

 地球の珊瑚礁に見られるような「マリンブルーとエメラルドグリーン」の入り混じった美しい瞳を持つ女神は澄まし顔で微笑みかけることはなかったが。


「俺が引き受けないと、ただこれからは俺に給金が入らないだけなのだ。

 それなら引き受けるしか選択肢はないやん」


 それに俺も神界の一員ならば──思うところ有りだ。


「いつか、あの女神が俺に向けて微笑んでくれる日の為にも張り切ってみるか」


 と、思う次第だ。




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