12 王国紙幣
ランスフィアの街に着いて最初に目を引かれたのは果物ショップだ。
黄色くてグローブみたいな美味しそうな果物が売られている。
「どう見たって、ぜったいバナナだろ」
レンジの知る果物に酷似していたようだ。
若い旅人が物欲しそうに商品をのぞいていると店主も笑顔になる。
「一本いくらかな? ……すみません、その黄色いやつ。ひとついくらですか?」
「へい、ひとつなら8グランになります。おひとつどうですか?」
「は……?」
値段を聞いて思わずもらしたのは恐らく安すぎる、ということだ。
「やだなぁ、お客さん。旅の冒険者さんでしょ? 果物ひとつに溜息なんて、まさか一文無しなんてことはないですよね?」
「いや……100はするかと思ったから。マジで8なら、ひとつください」
果物店主は、「冗談はやめてくださいよ。どこの店にもある南の島の特産品のバナンボですよ。季節ものですが大量生産が売りの果物の定番ですよ」
「南の島っぽいね。お味はどうかな。それじゃ紙幣になりますがお釣りは出せますか?」
「へい、まいど! 包みましょうか? 肉体疲労にも効くんですよ」
店主が紙に包むかといってくれたが、レンジは「結構です」と答えてその手で受け取った。同時にレンジは収納から1万グランの紙幣を一枚取り出して、店主に手渡した。
だが店主はなぜか顔色が優れない様子。
「お、お客さん! これって……王国紙幣じゃないですか?!」
「えっ何か問題あるの? もしかして流通してなくて使えないとかですか?」
レンジは少し焦った。神界から支給された現金通貨だが、地上でしか使用できないと習ってきたのに。
「いや、そうじゃないんですけど。王国紙幣だなんて珍しいもので。お客さん、これいくらなんですかね?」
「あ、使えるんですね。おじさん、文字苦手なんですか? 1万ですよ」
「うわあ、やっぱり。9992グランの釣りを出せる店なんて、そこのギルド酒場ぐらいのもんですよ!お客さん申し訳ないですね。お手数ですが、酒場に行って両替をして来て下さいませんか? わたし店番で留守にできなくてね」
果物店主は申し訳なさそうに釣りが出せないので両替をして来て欲しいとレンジに頼んできた。手にしたバナンボは店主に返した。
意味が分かったので「わかりました。勉強になります」とその場を後にして酒場に向かうことにした。
酒場までは目と鼻の先だが、歩きもってレンジはつぶやいた。
「1万じゃ釣りがねぇか。果物小売店のあるある、だな」
冒険者ギルド兼酒場だ。ウエスタン風の両開きの木製扉が見えたので押して中に入っていく。酒場のメニュー注文カウンターとは別のカウンターをすぐ見分けた。
左側が冒険者用の受付なのだろうと察しはついた。どっちがいいんだ?
「おっさんは酒場に行けといったので。酒場カウンターで聞いて見るか」
カウンターに行くには客の目を縫うようにして辿り着く必要があるけど。
夕方近くだけど結構、客入りがあるな。どれも町民風ではなく、ゴツゴツしている体格だったり、鎧姿や武器を傍に置く者が目立つ。
冒険者だな。ここはそういうところだ。
仕方ないね、これからの為にも両替はして置かなきゃならない、と。
酒場のカウンターに行くと、顔髭をぼうぼうと生やした恰幅のいいマスターに声を掛ける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「おう、兄さん! 注文かい? 初見さんだな、空いてる席に適当に座ってメニューがあるから決まったらテーブルの隅にあるベルで知らせてくれな。よろしく!」
すっかり酒場の客だと思われて、注文の案内を受けてしまった。
「まあ、どのみち呑むんだけど。今は違うかな。おじさん、お話聞いてもらってもいいですか?」
マスターが振り向いて、にんまりした。
「若ぇの、どうした? 野郎どもが怖くて席につけねえか?」と鼻で笑った。
商売柄マスターの声は大きくて。聞こえたらしい周囲の連中が一緒になって笑いだした。そのうち冷やかしも飛んできた。
「優男じゃ仕方ねえさ、勘弁してやれやー! がっはっはぁ!」
レンジは、つい「ちっ! 酔っ払いが面倒くせぇな」と舌打ちをした。




