11 一方的な交渉「レンジは身勝手な奴が嫌いだ」
ギルドがあれば様々な職種がある。
魔法を使う輩など割とごろごろ居るはずだ。
レンジは引き続きラムナに問う。
「魔術士なんて地上にいくらでも居るだろ? どこまでやれるかにも依るだろうけど。君が必要なのはどんな魔法なんだ? 君は扱えないのか?」
ギルドの連中に頼まないのは何故。それを聞く必要性は別にない。
だがレンジは自分に頼んでくるなら状況を把握しなければ納得には及ばないことを彼女に解らせたい。
「なぜ見ず知らずの俺をこんなに当てにするんだ?」
ラムナはレンジの問いかけに戸惑いを見せる。
そして視線をそらし、ボソッと呟くように答える。
「あの人たちでは……力不足なのよ」
「うん?」
「だってラムナより弱いんだもん」
「君の知り合いたちは頼りにならないというのか。けど冒険者じゃなければ魔物に対抗するだけの火力は望めないだろ?」
仲間にするには力不足。
しかし高望みをすればキリはなく賢者のような高次元の使い手しか居ない。
ばつの悪そうな表情が物語っているのはそんなところだ、とレンジは察する。
「賢者みたいな強い人も居るだろ?」居ればこんな手段に出ないか。
ラムナは目を見開く。
「いるけどランクが違い過ぎるよ。冒険者はランク付けで人との結びつきが決められているの」
仲間との出会いが冒険者ランクに依存する世界か。
それを運命と呼ぶには早過ぎる。修練を積み重ねるほかはない。
「なら手頃な相手とともに成長を重ねるのが筋じゃない? なぜ見下すんだ」
見下しとか決めつけは身の敵になる。
まだ事情が見えないが。ラムナはその者たちと勝負でもしたと言っているのか。
「それは戦ったという意味なのか?」
「ううん。組んで冒険に出掛ければレベルが判るじゃない?」
「そういうものなのか。俺は冒険者じゃないから詳しくない」
組んで討伐にでも出掛けた。
ラムナは強いが、そこに加勢する者が力不足だったと感じるのなら。
よほどの強敵か。無理手を打てば仇となり味方を負傷させる。
それは仲間の弱さのせいではなく己の未熟さを憎むべき。
「相手は強敵か。ラムナは体術タイプか?」
「獣人はみんなそうよ。だから魔法を覚えたいの!」
「それは、つまり魔法の使い方を俺に教えろってことか?」
彼女は頷くものの、そこに素直さが感じられない。
彼女の眼がそうだと訴えてくる。
現段階では事情を聴取しているに過ぎない。「はいそうですか」と受けるわけにはいかない。
「待ってくれ。先も言ったように俺のは戦う為の魔法じゃないんだ。だから悪いけど他を当たってくれないか」
他者にものを教えるのは難しい。習得にどれ程時間を要するか。
それを思うとレンジの表情にも陰りが見える。
ラムナはそんな彼の気持ちをよそに食い下がってきた。
「攻撃魔法じゃなくてもいいの。レンジの魔法は見たことがないからきっと役に立つと思って、追いかけてきたのよ!」
今の彼女の言葉はどういう意味だ?
「攻撃に使えなくてもいいとはどういうことだ?」
冒険慣れしている魔術士たちを弱くて使い物にならないと言わなかったか。
レンジの脳内に疑問が増えた。
ラムナは語り出す。
「ギルドの連中のレベルだと、とても推薦枠には届かない。でも魔法で空を飛べるぐらいなら推薦を受けられるかも知れないってギルマスに聞いたの」
推薦とは?
「ちょっとラムナさん、一体なんの話をしてるんだ? なんの推薦を受けるつもりなんだ?」
「お、王立魔法学院よ!」
王立ということは人間の設立した学院のことなのか。
魔術士を専門的に育成するための機関であろうか。
「君は魔法の学校へ入学する気なの? 体術タイプの獣人なのに?」
ラムナは聞き捨てならぬ、という不機嫌な顔を見せた。
「そういう種族差別は今はないのよ! どこの田舎者ですか、あなたは!」
そもそも冒険者登録も認められているのに、と。
「あ、いや……変な誤解はしないでくれ!」
レンジはそれについては無知で申し訳ないと丁重に詫びた。
「それはごめん。でもそれだったら余計に俺には無理だ。俺はすでに職がある、こう見えて暇ではないんだ。これ以上はしつこくしないでくれ。酒場に行くが、しつこくしたらギルドに通報させてもらうからね!」
人への頼り方がおかしい。
「魔法学院なんていうからだよ。そこが一番肝心なことなのに後出しにするのズルくないですか? さきに魔法を教わる約束を取り付けておき、魔法学院のことは伏せておくつもりだったんでしょ?」
(なんとも図々しい女だ。頭ごなしで偉そうで。人にものを教わる態度か、これ)
周囲より強いという状況が「冒険者」というものをこうまで付け上がらせるのか。
ラムナは絶望感に見舞われていたが、一方的にお守りをさせられるのは勘弁だ。
突き放した言い方をしないと諦めてはくれない、とレンジは判断してのことだ。
他人の事情にいちいち深入りしていたら身が持たない。
彼女は自慢の俊足といい勝負のレンジの魔法絨毯を比較して惚れこみ、頼み込む内容が魔法学院への推薦入学のための魔法習得だと、しぶしぶ明かすという。
「そんな勝手自説、どんな大金を積まれてもお断りだよ。感覚に大きなズレがあるみたいだな。他人の自由を脅かしてまですることか? 種族の差別はないと言ったな。嫌だと言っているのに無理強いをさせられたら、まるで俺が奴隷みたいじゃないか」
逆奴隷を意識して言葉を添えると、ラムナはまた態度を改め、しおらしくなる。
「あ……その。そんなつもりじゃ……なかったの。あなたを見かけて興奮してしまって、つい。レンジ……ごめんなさい」
人権を主張すると素直に謝罪をするが、なんとも白々しい。
約束だけしてしまったら種族差別や女を楯にがんじがらめに遭いそうだ。
否、魔術士は言葉による契約が有効な職という傾向がある。これからも用心すべきこと、レンジはそう考えた。
(獣人を含む亜人が人間たちにそういう扱いを受けてきた歴史があるのは講習で知ってはいた。
知識を逆手に取った言い方で傷つけたかもしれない)と、レンジは最後に声を掛けた。
「きみがどこかのお姫様なら、わがままな言い分でも話を聞いてやったんだが。俺は街へ行くよ、元気でやれよ!」
「姫様?……そんな高貴な身分なら、無条件で学院に入れるわよ。そもそも獣人の国なんて行ったことないし、どこにあるのかも知らないよ」
「そこは俺の知ったことではない。もしも姫様だったら、たんまり謝礼をもらえただろうって話だよ。きみも、お姫様だったらよかったのにな。残念だったな」
ラムナは悔しそうに歯を食いしばる。
自分を恨めしそうに涙目で見つめてくる。レンジはそんな彼女を横目に。
勇気を出して相談した相手が結局、金品と上流に尻尾を振る輩と知ってがっかりしたに違いないと目を伏せて冷たくあしらう。
もっとも褒美などどうでもいい。姫様だったら言うことを聞く。そういっておけばこの子は諦めるしかないと思ってのことだ。
どこをどう見たって姫様なんてものとは程遠い。言葉使いも振舞も。
王族が護衛もつけずに単独で冒険者などしているはずがない。
レンジは絨毯に乗り、ランスフィアの街へと向かった。
もう、ラムナがレンジの行く手を阻むことはなかった。




