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10 勝手なお願い「レンジは巻き込まれたくない」


「ところで……」


 レンジは、冒険者を名乗るラムナに尋ねる。


「俺を呼び止めた理由はそれだけか? もう解放してもらってもいいか? そこの街の酒場に行くところだったんだ」


 レンジは「ランスフィアの街」を指さして言った。

 だがラムナはまだ用件があると言い、食い下がってきた。


「あたし魔術士のあなたにお願いがあって呼び止めたの、話を聞いてくれるなら一緒に街の酒場について行くよ!」


「行くよ……って? 14歳でしょ?」


「なんでよ? お酒は飲まないわよ。冒険者ギルドに行くだけよ」


「あぁ……そういうことか。酒場にギルドが併設されているのだな」


 レンジは講習で受けた地上人の暮らしについて思い出した様だ。


「申し訳ないけど、相談に乗るつもりはないのと、ご一緒するつもりもないんだ。一人で飲みたいんでこれで失礼するよ、ごめんね」


 自分の意向は伝えた。それじゃ、とレンジは再び絨毯に乗って発車の素振りを見せる。

 だがラムナはそれを制する行動に出る。自慢の速足で前方に回り、両手を広げて立ち塞がった。あんなに必死に呼び止めた理由も聞かずに去ろうとするレンジの態度の冷たさにも納得していない様子で。


「ちょっと、こっちの話を聞いてから決めてもいいんじゃないの? 名乗り合ったじゃない? さっきの微笑みはなんだったの? 言い方を怒ってるの? レンジ、歳は幾つ?」


 怒っているのかとレンジに問いつつ、眉間にしわを寄せて憤慨してるのはラムナの方だ。


 そういえば彼女も年齢を名乗ったっけな、とレンジは絨毯(ホバー)を止めて。

 呼び止められたので振り向きざまに答えた。


「20歳ですけど」レンジが素直に応じると、ラムナは広げていた両手を腰に当て顔をぐいと寄せてきた。


「少し、年上じゃないかとは思ったけど。それならもっと寛容になるべきよ!」


 目上なら目上らしく? 心の狭さを咎めているのか。


 おそらく身長差での判別をつけたのだろう。二人には頭一つ分の身長差があり、無論レンジの方が背が高かった。レンジは170ぐらいだ。


「そういうものですか。勉強になります、それじゃね!」


 返事は素っ気ないが無視はしていない。


 レンジは軽く会釈をして、姿勢を正した。

 そしてまた、あっさりと別れを告げて行こうとするレンジをラムナは放って置かない。だが先程とは違い、強気の発言ではなかった。

 彼に見放されるのは態度の悪さだと思い直す様に、ラムナは頭を下げる。


「お願い、お願いします! 行かないで! 話だけでも聞いてほしいの!」


 このまま関わりを絶たれまいとラムナはその場で必死に声を張り上げた。


 ペコリとお辞儀をした。

 彼女の言葉と態度を見て、レンジはひとつ声を掛けた。


「君は、赤の他人を勝手な決めつけで判断するみたいだから、あんまり関わりたくないってのが俺の感想だから……」


 その言葉に彼女は下げていた頭を上げ、不思議そうにレンジに尋ね返した。


「あ……その、あたしの……どのあたりが?」


 レンジはきっぱりと答える。


「そもそも俺は、君の言う、『魔術士』じゃないんでね」


「え、でも。それ魔法の力で飛んでいるのよね?」


 その疑問符は尤もで、まあ違いはないけど。

 レンジはラムナが思い込む理由を知ったので答えてやることにした。


「確かに魔法は使うけど、俺は環境治療士だから勝手に見込まれても困る」


「えっ?! 治癒術の域にまで達している人なの? す、すごい……」


『治癒術』といって尊敬の念が自分に向けられた。

 この()がまた早合点をしたと感じて、レンジは透かさずその否定を入れる。


「なんかまた勘違いされても困るから言っておくけど。治せるのは環境であって人類じゃないからな。それにラムナ、冒険者なら魔術士もそこにいるだろ? ギルドの冒険者を頼ったほうが確実じゃないの?」


 酒場の顔見知りの方が理解が早くて仕事として受ける可能性は高い。

 レンジの指摘は的を得ているはずだ。

 だがラムナは何故か視線を泳がせ、なにか痛い所を突かれた様に表情を曇らせている。



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