2、早速仕事に行けってなもんで
まあ、大体がわかっちゃあいたけども。
舞い戻る鶴亭から鶯の止まり木亭に戻るほんの数十メートルを歩く間に溜まってた鬱憤晴らそうってなもんでおフユちゃんとアゾットに散々叱られる事になったわけで・・・。
「そもそも、お前様はあのフタバとかいう小娘とどういった関係なのだ!?」
「大体においてフィンクさんは節操が無いのです! 一番看病してあげてたのは私ですよそれなのにあんな何処の馬の骨とも分からない女侍にデレデレしちゃって!」
「傷が癒えて体力も回復して来たのは良い事じゃが、深傷を負ったお前様の傷を懸命に癒したと言うのに妾には労いの言葉も無しか!」
「本当に心臓が止まりそうだったんですからね私が! 一体全体辻斬り妖刀にフィンクさんが挑もうだなんて土台無理な話なのです猛省してください!!」
「愛する妾を救わんと飛び出して来たのは正直嬉しいが! それで返り討ちにあって死ぬ目に遭うなど言語道断じゃ!」
「ちょっと聞いてるんですかフィンクさん!」「聞いておるのかお前様!!」
「あー、へー、へいへい・・・申し訳ありやせんでした」
左右からガミガミガミガミ。
ああ・・・やっぱ嫁にもらうならお淑やかなアザイナデシコがいいなあ。
フタバさんって、そう考えるとめちゃくちゃナデシコだったよなあ。
どげし!!
「あいたー!?」
左足を前に出したタイミングで足の甲を全力で二人に踏みつけられて、思わず仰け反って叫んじまった。
フンって、もう絵に描いたみてえにフンって二人がさっさと宿に帰って行く。
うーん。とりあえず解放されたかな?
しかし宿の玄関口を潜ると、蜜柑色の鮮やかな髪を綺麗な灯籠鬢に結った美人さんのカエデが左の肩に顎が乗っかるんじゃねえかって顔を近付けて耳元に、
「遅いお戻りですねえ?」
ひゃーっ!? って、びっくらこいて右に飛び上がった俺は腰を抜かしそうになりながら振り向いたんだが、いつの間に離れたのか二間(だいたい3・6メートル)離れた宿の門前で竹箒を持ってにこやかに見つめてきていた。
こう言っちゃあなんだが、カエデさんは上方でも通用するくらいのめっぽう美人さんなんだが、こういう脅かし方してくるから不気味に見えちまうんだがな?
引き攣った顔でエヘッと笑い返すと、すっすって近付いてきて目の前に屈み込んで真正面から真顔で見つめられてしまった。怖い怖い・・・。
「ねえフィンクさん?」
「ア、ハイ」
素っ頓狂に声がうわずっちまう。
冷たい微笑みでカエデが続けた。
「お・や・ど・だ・い」
ますます顔を青ざめさせちまう。
そうだよなあ。
部屋代、休んでたぶん溜まっちまってるもんなあ・・・。
「ええと、ちょいと屯所に顔出してきやす・・・」
「はいな♪たぁんと稼いで来てくださいましねえ?」
女将さんの次に怖いのはカエデかな。
相撲取りもかくやって怪力の筋肉美人のマユリ姐さんは怒らせなきゃ大人しいしな?
やっぱ、カエデって、苦手なんだよなあ。
でもって俺は、すごすごと逃げるように折角戻った宿から飛び出して屯所に向かって一目散に駆けて行ったってこってす。