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1、全く安心して帰れるもんですかねえ

 アルジャリイトという世界が御座います。

 東西に広がる大陸は西のイベンス連合王国、中央のセンリュウ大帝国、東のロレイシア帝国と三つの国が互いを牽制しあう、魔法や錬金術の存在する世界。

 まさに、中世北欧を思わせるファンタジーの世界で御座います。

 ですが此度の舞台となるのは煌びやかなファンタジーの世界じゃあ御座いません。

 大陸から、東陽海を隔てた弓形に南北に伸びる火山列島群からなるヤマト列島、その中でも最も大きな島を支配する国家、アザイ聖王国。

 まるで江戸時代の日本にっぽんを想起させるその国は、幾つもの藩と呼ばれる小国家の集まった連邦王国であり、その中央支配権を有するのが京の浅井家。大王はかんなぎ浅井あざい佐登美さとみの巫女様。

 とまあ、仰々しく言えばそうで御座いますが、舞台となるのはそのアザイ聖王国の小国の一つ、信濃藩しなののくには上田の地にほど近い宿場町の五本木町って大して大きくもねぇ町でして。

 なんの因果か腕自慢で大陸から流れて来たロレイシア人の、フィンク・コークスっていう何処にでも居そうな平凡な冒険者がこの物語の主人公に御座います。

 ヤマトの内地じゃ珍しい大陸人は、この地じゃ異人と珍しがられて、しかもこのフィンク・コークスといえば齢二十五にして三十半ばかという老けっぷりにアーモンドみてぇなタレ目の年がら年中女の裸を妄想してニヤけた顔の三枚目。

 大陸から流れて生きてはや五年。

 今日も寂しい独り者は、今日も今日とて命懸けの日常を、過ごしていたので御座います。

 嗚呼、冒険者なんてのは、手間てめえの命を博打に掛けて、傭兵まがいに身体からだを張った、碌でもねぇ渡世人に御座います。





 なんて事はねぇ一日の始まりだった。

 辻斬り妖刀との大立ち回りの傷が癒えてから、怒涛の思い違いでアゾットとおフユちゃんの追撃からフタバさんに匿われて舞い戻る鶴亭で一日厄介になったんだが、おフユちゃんとアゾットの方が折れて頭を下げてきたってんだから戻らねえ訳にもいかなくってな。


「ひとんちの冒険者さんを掠め取ろうだなんて盗人猛々しいとは思いませんかフィンクさんを折檻しようだなんて絶対しませんからお願いです返してください」

「妾が悪かった悪ノリが過ぎただけじゃフィンクは妾の恩人ゆえ無碍にはせぬと約束する返してくれぬか」


 正直あんま頭下げてる風には見えなかったが、まあ置いといて。

 嬉々として俺を庇ってくれた(?)フタバさんはってぇと、まぁまぁ困った様子で姉妹と相談なんかしてた訳だが。


「酷い仕打ちをされているのですから、いっそこちらの宿の所属には出来ぬものでしょうか」

「あのね、フタバ」眉間に皺を寄せて右手でこめかみを抑えるカズミ「フィンク殿を雇っているのは鶯の止まり木亭の女将さんなのよ。舞い戻る鶴亭の女将さんとは折り合いが少し悪いといっても協力関係にあるの。引き抜きなんて出来るわけがないでしょう?」

「そーそー。フタバお姉様はそもそも、なんだってあんなチンチクリンな異人さんなんかを気にかけるんです?」

「だからっ! 恩人で・・・いい機会だと思うんですけれど」

「いけません。ともかく、こうして先方さんも頭を下げていらっしゃるのだから、フィンクさんのことは返して差し上げましょう」

「そんなぁ・・・」


 うーん。

 正直、切れ長の目が美人なポニーテールの女流剣士様に気にかけて貰えるってのは悪い気はしねえんだが。あと、帰ったら絶対折檻されるだろうし帰りたくもねえんだが。

 小嵐三姉妹の長女カズミと末妹ミツエに真顔で見つめられて、まあ、不可抗力とはいえ一晩厄介になった舞い戻る鶴亭を後にすることに決めた。


「ともかく・・・まぁ、なんか誤解も解けたようなんで、俺ぁも鶯の止まり木亭に戻ろうと思いやすがね?」


 ミツエがジト目で見てくれる。


「フタバお姉様に助けてもらったくせに生意気なおっさんだなあ」

「こらミツエ!」


 バシンってカズミさんに頭引っ叩かれた。ザマァねえや。


「いったーい、だって本当のことじゃないですかカズミ姉様!」


「フィンク殿が居らねば、フタバも無事でいたかどうかわからないほどの相手だったのですよ。わたくしだって・・・」


 と、カズミさんから意味深な(好き嫌いってえ感じじゃあねえよ?)目で見つめられて「はて?」と小首を傾げちまうが、ガバとおフユちゃんに左腕に抱きつかれてそれどころじゃなくなってびっくらこいた目をかっ開いてその愛くるしいお顔を見下ろしちまう。


「帰りましょう、フィンクさん」

「え!? あ、うん・・・」


 鬼の形相になったアゾットに頭引っ叩かれた。


「いってえ!?」


「お前様やっぱり折檻じゃな」


「なんで!?」


 フタバさんがもの凄く微妙な顔をしてたらしいんだが、角度的に俺は気づかなかった。

 でもって結局、鶯の止まり木亭に戻ったのはその日の昼ごろになったわけなんですなぁ。

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