3 私とユリウス(宰相視点)
私とこの国の国王であるユリウスは同い年だ。
私の祖母が王妹だったため、私も王家の血を引いている。
最も血が薄まってきたせいか王家の証である紋章も薄っすらとしか出ていないが‥‥。
幼い頃から比べられ、またお互いに良きライバルとして育ってきた。
それでも将来は父の後を継いで宰相になる事に何の躊躇いも無かった。あの時までは。
もう一人、私達と幼なじみの娘がいた。
当時の王妹の娘でユリウスとは従兄妹のマリエルだ。
従兄妹というよりは兄妹と言ってもいいくらいに二人はよく似ていたが、私にはマリエルは特別だった。
初めて彼女に会った時から私は彼女に恋をした。
彼女に会えるのは何よりも楽しみだった。
いずれは彼女を娶ると決めていたし、それは必ず実現されると信じていた。
それには様々な理由があった。
まず第一に王の子供はユリウスしかいないという事。
ユリウスの父親は側妃を娶らなかったため他に子供はいなかった。
王族を増やすため、ユリウスとマリエルは別々に結婚相手を見つけるように言われていた。
第二に従兄妹同士で結婚すると血が濃くなり過ぎるという事だ。血が濃いと子供が出来にくいらしい。
私とマリエルの結婚を確実なものにする為に父親の宰相にも進言し、ありとあらゆる伝手を使って、ユリウスには隣国の王女との婚姻を整えていくはずだった。
そう、あと一歩だった!
それなのに‥‥。
ユリウスはマリエルを選んだ。
マリエルもユリウスでなければ結婚はしないと言った。
私の事は嫌いではないが、幼なじみ以上の感情を持つ事が出来ないと…。
私はぐちゃぐちゃになった気持ちを押し殺してユリウスに問いかけた。
「どうしてマリエルを選んだんだ? 王族を増やすんじゃなかったのか?」
薄々私の気持ちに気付いていたユリウスは申し訳なさそうに口を開く。
「大事な妹だと思っていた。でもマリエルが自分以外の男と結婚するんだと思った途端、どうしても手放せないと気付いたんだ。グレイには悪いと思ったが、自分の気持ちを抑えられなかった。マリエルがグレイを選ぶのなら諦めようと思っていたが私を好きだと言ってくれた。本当にすまない…」
頭を下げるユリウスに握り締めた拳がぶるぶると震える。
普段なら、簡単に頭を下げるなと注意する所だが、今は「それ位で済ませる気か!」と怒鳴り散らしてしまいそうだ。
お前が、お前さえいなければ‥‥。
膨れ上がる憎悪を押し殺してユリウスの頭を上げさせる。
「マリエルがお前を選んだのなら仕方ないさ。ソフィア王女は私が娶ろう。私も王家の血を引いているから、王族に嫁ぐという建前は保てるはずだ」
こうして私と隣国の王女であるソフィアは結婚した。
しかし、この結婚はソフィアにとっては苦痛でしかなかっただろう。私の心はマリエルにしかなかったから。
ソフィアが妊娠するまでは閨を共にしたが、彼女が身籠った途端、私は様々な理由をつけて寝室を別にした。
決してソフィアが悪いわけではない。
でもやはりマリエルでなければ駄目なのだ。
公務復帰と王子お披露目の日。
目の前のマリエルは後継ぎを産むという重圧から開放され、まばゆいばかりの微笑を浮かべている。その傍らにはユリウスが‥‥。
あの場所にいるのは、私だったのに…。
いいや! いずれ私があそこに立つのだ!