2 お披露目
この世界に転生して3ヶ月が過ぎた。
ふにゃふにゃしていた首も据わって、身体に肉も付いて随分成長したよ。
王妃である母親の公務復帰に合わせて、僕のお披露目も行われた。
まぁ、僕はただ両親の間に座らされてるだけなんだけどね。
座るといっても、前世のベビーラックのような椅子に寝かされている感じだ。
さしてする事もないからもっぱら情報収集と人間観察だね。
最初に挨拶に来たのは、父上の右腕でもある宰相だ。
あ、両親の事は父上・母上と呼ぶ事にした。
お父さん・お母さん、パパ・ママってガラじゃないよね。
でも、父上・母上って‥‥。
いかにも高貴な感じで、前世一般庶民の僕としてはむず痒いったらない。
そのうち慣れてくるんだろうな、と思いつつ大人達の話に耳を傾ける。
この宰相もわりとハンサムだけど、ちょっと一癖も二癖もありそうな感じ。
「この度はおめでとうございます。これで私の肩の荷も下りましたよ」
宰相の言葉を聞いて僕は今まで聞いていた話を思い返していた。
みんなは僕が話の内容を理解出来るなんて知らないから侍女達や乳母達は色々とお喋りするんだ。
どうやら結婚して7年も経つのになかなか子宝に恵まれず、側妃を娶るという話が出ていたらしい。
国内のみならず、近隣諸国からも打診があったらしく、宰相であるグレイは対応に追われていたようだ。
「本当にグレイには随分と迷惑をかけたわね。それよりもソフィアの事、残念だったわ。せめて一目でも顔を見てお別れが言いたかったわ…」
母上が目を潤ませている。
流石にお祝いの席で泣くわけにはいかないと、必死で涙を堪えているようだ。
「いえ、最期はやつれてしまっていて、見ていられないほどでした。元気だった頃の姿で記憶に残して貰えた方がソフィアも本望かと…」
「そういえばカインはどうした? 今日は連れて来るんじゃなかったか?」
父上の問い掛けにグレイはふぅっとため息をつく。
「息子はあの日以来、部屋に籠りがちで出てきません。私がソフィアの最期に間に合わなかったのが気に入らなかったのか、私とも口をきいてくれないのです」
「それは俺にも責任があるな。マリエルの出産でバタバタしていたとはいえ、もっと早くお前を家に帰すべきだった」
「いえ、宰相の立場としては王宮の事が最優先ですから…。ソフィアも私の仕事の事はわかっていたはずです」
侍女達の噂話でも聞いてたけど、僕が生まれた時と同じ頃、宰相の奥さんは亡くなったらしい。
一番大変な時に父親がいないなんて息子が怒るのは当たり前だよ。
そう思いながら宰相を観察していた。
何だ?
宰相の母上を見る目に違和感を覚える。
妙に熱い視線というか、執着したようなねっとりとした眼差しだ。
…気のせいだ。見なかった事にしよう。
次に挨拶に来たのは騎士団長とその息子だった。
僕のお披露目だけでなく将来の側近候補との顔合わせという意味もあるんだろう。
騎士団長は流石に騎士らしくがっしりとした体付きをしていた。
息子の方も既に父親に剣を習っているらしい。大きくなったら僕も一緒に訓練をするようになるんだろうな。
そうやって何人もの人が入れ代わり立ち代わり挨拶に来る。
ちょっと飽きてきてキョロキョロと周りを見渡していると父上の横に立っている宰相の手が目に入った。
よく目を凝らして見ると、その手の甲には薄っすらと何かが見えた。
手の甲に紋章?
宰相も王族なんだろうか?
そう思ったところでふぁ~とあくびが出て瞼が重くなってきた。
どうやらこの小さな身体はそろそろ限界のようだ。
赤ん坊は寝るのが仕事だからね。
おやすみ…。