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14 赤毛の冒険者

 王都を出て、一年が過ぎた。


 シオンはすっかり成獣の大きさになり、僕を背中に乗せて走れるようになった。


 おまけに喋り方も大人びて僕を子供扱いするんだ。


 僕の方が年上のはずなんだけど、納得いかないな。


 背中に乗せてもらうのは楽でいいけどね。


 しばらくあちこち転々と移動していたが、最近ようやく国境付近の森に落ち着いた。


 森の中に家を立てて、魔獣を狩っては素材を町で売り、生計を立てている。


 追手も今のところ何とか回避している。


 このまま何事もなく、成人を迎えられればいいけどね。


 ロビンは偶にやって来て、王都の様子を知らせてくれる。


 王都に戻れないと言いながら、ちゃっかり出入りしてるんだよ。

 

 どうやらグレイ達は贅沢三昧の生活をしているらしい。


 少しずつではあるが、税金の徴収が増えているそうだ。


 それに不満を持つ領主をこちらの味方に引き入れようとロビンは暗躍している。


 このままちゃんと国を治めてくれるならばいいけれど、そうでないのなら僕は覚悟を決めるしかないのだろう。


 それでも僕が成人して王の資格を得るまではまだ十二年もある。


 僕はシオンを連れて今日も狩りへ向かった。


 ゴブリンとオークを数匹ずつ倒した。


 ほとんどシオンの手柄だけどね。


 でも僕だって多少は剣の腕は上がったと思う。


 今日はもうちょっと奥へ行ってみるか。


『誰か襲われてるぞ』


 シオンが更に奥の方を見て告げる。


 どうしよう。


 僕とシオンだけで対処出来るだろうか?


 迷ったが、父さん達を呼びに戻る時間が惜しい。


 覚悟を決めて、シオンの進む方へ向かった。


 そこにはサラマンダーと対峙する一人の男の姿があった。


 サラマンダーの口から吹き出る炎をアイスシールドで避けているが、少しずつ押されている。


「シオン、行けるか?」


『問題ない』


 シオンがトンっと跳躍してサラマンダーの喉笛に食らいつく。


 サラマンダーは振り落とそうとするが、シオンは食い付いたまま一向に離れない。


 そのスキを付いて男がサラマンダーを斬りつける。


 凄い!

 真っ二つだ。



「大丈夫ですか?」 


 僕の声に男が振り返る。


 年は父さんと同じ位だ。


 そこでようやく男が真っ赤な髪をしている事に気付いた。


「あぁ、助かったよ。君の従魔かい?」


「そうです。シオン、おいで。」


 シオンが咥えていたサラマンダーを離して僕に駆け寄る。


「素材は半分ずつでいいかい?」


「えっ。いえ、いいです」


「子供は遠慮するものじゃないぞ」


 そう言って取り出した素材を僕に渡してくれる。


「ありがとうございます」


 断っても無理そうなので遠慮なく受け取る。


「俺はゼフェル・グラナドスだ。君は?」


「僕はフェルって言います。こっちはシオンです」


「シオンはフェンリルか。触ってもいいかな?」


 シオンを見るとパタパタとしっぽを振るので


「大丈夫です」


と答えると、ゼフェルさんは大きな手でシオンの頭を撫でた。


 シオンも気持ち良さそうにしてる。


 その様子をじっと見てると、優しそうな目を僕に向ける。


「赤い髪が珍しいかい?」


「ごめんなさい。不躾でしたね」


「気にしないよ。僕はゴダールから来たんだ」


 そう言われてびっくりした。


 ゴダール国は海の向こうにある国だ。


 船で渡れるけど、海の魔物がかなり強いため、なかなか国交が進まないと聞く。


 陸路もあるが間に他国を挟むため、現実的では無いらしい。


「冒険者ですか?」


「まぁ、そんなものかな。君もかい?」


「はい」


 ゼフェルさんは、僕の頭と右手をじっと見ている。認識阻害に気付いたんだろうか。


 何を言われるんだろうと、ドキドキしていると、僕の顔を見てフッと笑った。


「今日は助かったよ。じゃあね」


 そう言って町の方へと歩いて行く。


「気を付けて」


 その背中に声をかけると、振り返って手を振ってくれた。


「僕達も帰ろうか」


 でも、サラマンダーに出会ったと言ったら、父さんに怒られるかな。しばらく森に行かれなくなるかも。


「シオンも一緒に怒られてよ」


 途端にシオンのしっぽが下がった。



 ******


 ゼフェルは町を抜け、更に王都へと向かった。


 まさかあそこでサラマンダーに出会うとは予想外だった。


 あの小さなテイマーのおかけで助かったが…。


 前回、この国の王都に来た時にある娘と出会った。彼女と恋に落ち、結婚しようと決意した矢先、父親が危篤だと知らせが届いた。


 彼女にすぐ戻ると告げて国に帰ってみれば、父親はピンピンしていた。


 自分を連れ帰る為の嘘だった。


 すぐに彼女の所へ戻ろうにも監視が厳しく、抜け出す事が出来なかった。


 父親の薦める娘と結婚しろと言われるのを説得して、ようやく許しを得た矢先、本当に父親が死んでしまった。


 それから領主の父親の跡を継ぎ、傾きかけていた領地を必死で立て直した。


 領地の経営も軌道に乗って来た時には彼女と別れてから6年以上も立っていた。


 母親に1ヶ月だけと許しを貰い、再び彼女に会う為にこのチェルニー国にやって来た。


 もしかしたら既に他の男と結婚しているかもしれないと思いながら。


 しかし、彼は知らなかった。


 彼女が既にこの世にいない事を…。




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