プロローグ 悪魔の話
「おい、アンタ。お前は悪魔を知っているか?」
薄暗く古臭い酒場で隣に座っている男が声をかけてきた。
ふと隣を見ると、黒い髪の中に紅い瞳が光っている。
初対面なはずの男は、なれなれしい口調で話を続けた。
悪魔ってのはちゃんと存在するんだ。まぁ、ちっとばかし人間の想像してるのとは違うんだがな。別に全身タイツのように真っ黒でもないし、ましてや羽なんかも生えてねぇ。人間そっくりだ。むしろ、人間そのものといってもいいぐらいだな。
じゃぁ何で悪魔なんて呼ばれてるかって?そんなモン簡単なこった。悪魔ってのは人間の運命を操る能力があるのさ。いかにも幸せそうなヤツに目をつけてたら、ソイツを玩具にして弄ぶ。そうして、無限の時間を過ごすんだ。
私は無宗教だったが、悪魔だのなんだのの話にはもともと少しの興味はあった。それに、この男の話は、いかにも作り話に聞こえなくて、はじめはただの酔っ払いのうわ言かと思っていたが、いつの間にか聞き入ってしまった。
まぁ、もともと私が人の話を聞くのが好きだったという点もあるのだが。
そこで私ははじめてこの男に口を開いた。
どうしてそんなことを言えるかって?・・・お前さんは馬鹿か。それ位気づいてると思ったんだけどな。まぁしょうがない。あえて教えてやろう。
「俺の名はディアポロス。またの名を 悪魔 だ」
それが悪魔とのはじめての会話だった。
「そうだな・・・少し昔の話をしようか」
「おいおい。そんなにびびるこったねぇって。別に取って食おうなんて思ってないからよ」
「悪魔は気まぐれなんだ。久しぶりにニンゲンと話がしたくてここに来ただけさ。付き合ってくれよ」
「これは、この国がまだできる前の話しだ。今から丁度583年と27日21時間と12秒前の12月25日からはじまった話だ」
「ん?何を言っているんだ?もちろん正確な時間さ。なぜなら俺は悪魔だからね。それぐらい前のことなら、どんなことでも覚えてるさ」
「・・・まぁいいや。とにかく話しに付き合ってくれよ。最近は楽しいことがなくて、暇で暇で死にそうなんだ」
「そうだ、この話をする前にひとつ言っておかなければいけないことがあった」
この話の語り手は俺だ。
しかし、この話の主人公は空色の髪に、真紅の瞳のニンゲンだ。
そう言って悪魔が不適に笑ったのを今でも鮮明に覚えている。
なぜなら、私の髪の色は空色。そして、瞳の色は真紅だからだ。
ほら、なんで俺がこの話をしたくなったかわかっただろ?
でもな、これは お前 じゃないぞ?
これは悪魔に運命を握られたニンゲンの物語だ。
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