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シシルナ島物語 天才薬師ノルド/荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣  作者: 織部
第二章

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かき氷とビュアンの意地

「それで、ヴァレンシア孤児院では、何を出すつもりなんだい?」ノルドは尋ねた。

「グラニータ、つまりかき氷だよ」とリコは自信満々に答えた。

「何それ? 今は夏だよ!」氷は、冬の間に川の流れ溜まりの表面に張るものだと、ノルドにはどうしても理解できなかった。


「それが、それが、なんと、魚市場の地下には、氷を作れる魔道具、製氷機があるんだよ!」

「見たい!」ノルドは大きな声で叫んだ。

「ふふん、いいよ。頼んであげる。ノルドなら、ばあばも許可を出してくれるよ」


 ビュアンは珍しく静かで、何も言わなかった。

「どうしたの? ビュアン」ノルドが尋ねると、

「ううん、別に」と小さな声で答えると、妖精は姿を消してしまった。


 ノルドとリコは顔を見合わせ、何か気に障ることを言ったのだろうかと考えたが、特に思い当たることはなかった。


 かき氷は、できた氷を回転刀がぐるぐる回るかき氷機で削り、シロップをかければ完成らしい。

「うん、それでそのシロップをどうしようかってことなのよ!」

「なるほどね」

「うん、ノルドやセラ母さんの知恵を借りたいと思ってね」

 こんな暑い中、冷たい氷を食べることを考えるだけでも最高だろう。


 セラに聞きに行くと、「そうね。シシルナ島といえば、レモン、オレンジ、アーモンド、ピスタチオかな」

「わかりました! それは準備しまーす。ノルド特製のシロップも欲しいな!」とリコがリクエストしてきた。


「うーん、思いつかないなぁ」

「思いついたらでいいわ! じゃあ、果物の買い出しに行こう!」



 ノルドは眠い目を擦りながら、リコに連れられてノシロの店にやってきた。

「久しぶりだな、ノルド! 魔兎かぁ?」

「いえ、リコの付き添いです」

「また頼むよ! まだ在庫はあるから大丈夫だけどな」


 ノルドが魔物の森で魔兎を狩りすぎたせいで、数が減ってしまった。

 そのため、今年は狩りを控えている。もちろん、他の魔物の森に遠征するのは問題ないが、今のノルドは忙しかった。


「ええ、色々と納品しないといけない薬がありまして」

 グラシアス、ニコラ、サルサ、マルカスと、薬の納品客が待っているからだ。

 ポーション、蜂蜜飴、保湿クリーム、それに蜂蜜酒など、ノルドの定番の作成品に加えて、サルサやマルカスから特別な薬の製薬も頼まれている。

 特別な薬は、ノルドでも難易度の高い製薬で、新たな挑戦が多い。

 サルサやマルカスも医師で、ある程度は製薬できるらしいが、薬師であるノルドの方が成功率が高い。


「数も大事だが、種類も大事だ」とサルサはノルドの薬師としての成長を促してくれている。

 そして、こういった薬はサルサたちから材料も渡され、製薬賃だけが支払われる。


「それじゃあ、儲かってるんだな?」

「さあ……」

「おいおい! 相変わらずだな」

 ノルドは、ノシロから振り込まれる魔兎代の入った銀行の預金残高も、納品客から振り込まれる金額も知らない。全て、セラに任せている。


「色々と買ってしまったので、大丈夫でしょうか?」

 ノルドが欲しいものと言っても、製薬用の道具や本、練習用の材料などだ。

 これらは非常に高価だが、セラは一つ返事でグラシアスに注文している。


「ああ、きっと大丈夫だよ」ノルドの稼いでいる額をぱっと計算しただけでも、恐ろしい金額だ。

「良かったぁ。最近、母さんが具合が悪くて。僕の借金で生活できないと困るなぁ。それに頑張って稼いで、母さんのサナトリウムの入院代を稼がないと」


「ノルドのお金の話は、セラ母さんから私とグラシアスさんも聞いているわ! 任せといて!」リコが尻尾を振り、ふふんと鼻を鳴らして胸を張った。

「大丈夫かな、この金庫番で?」ノシロが呟いた声をリコが咎める。

「何ですって! そんなことより、さっき渡したシロップの原材料、手配して!」


 ノシロは何も言わず、準備に取り掛かった。何せ、天下のグラシアスが後ろについているのだ。

「じゃあ、レモン、オレンジの果汁が冷凍庫にあるよ。でも、シロップ漬けがあるから、その方が甘くて美味しいよ」

「それなら、そのシロップに薄いヒールポーションを隠し味で入れてみたらどうかな? 蜂蜜飴や蜂蜜酒みたいにさ」


 リコはふむふむと考え込みながら言った。

「それ、いいね。でもノルド、大変じゃない? あと、高いのはちょっと…」

「大丈夫だよ。かなり薄めて使うから」

「じゃあ、ノルドにお願いしてもいいかな!」

 リコはシロップ漬けを試食用に貰って帰ることにした。メグミの許可をもらって、氷を貰いに行くことにする。


 ノルドは、気になったことがあって、家に帰りたかった。


 ※


 町のお菓子屋でケーキを買うと、ノルドはそのまま作業場に向かった。

「ビュアン、出てきて。一緒にケーキを食べよう! 製薬に付き合ってくれた報酬だよ!」

「うん」元気の無いビュアンが現れた。

「どうしたの? 嫌なことがあったの?」

「ううん」そう言いながら、ビュアンは下を向いている。


「じゃあ、ケーキを食べて、気が向いたら話してくれる?」

 ビュアンはあっという間にケーキを平らげると、「ごめん」と謝った。

「どうして謝るの?」ノルドが聞くと、ビュアンは少し顔を伏せて答える。


「その、まだ私、氷が作れないの。だから……」

「ああ、そんなことか。ビュアンの魅力には関係ないよ。心配しないで」

「ワオーン」ヴァルも頷くように答える。


「いつか、リコも見返してやるんだから!」

「ビュアン、別にリコはそういうつもりで言ってないからね!」


「わかってるけど……女の意地よ! ちょっと修行してくるわ。しばらく来ないけど、心配しないでね!」

「でも、夏祭りには顔を出してね!」


 ノルドの声が届いたのだろうか、ビュアンは現れた時と違って、元気に消えていった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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