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シシルナ島物語 天才薬師ノルド/荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣  作者: 織部
第二章

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ダンジョン町の森

 ダンジョン町の近くに広がる“大魔物の森”。それは、シシルナ島最大の森であり、島の中央に深々と根を張っている。


「一度、入ってみたかったんだ!」


 ノルドは、探索の期待に胸を高鳴らせた。


 今回の同行メンバーは、ヴァル、ビュアン、そしてリコ。


 セラが、リコの同行をダンジョン町の森を探索する条件として挙げたのだ。理由は、万が一危機に陥ったとき、ノルドを担いで逃げられるから。


「子犬の前なんか、私は姿を現さないわよ!」

 

ビュアンは不機嫌だったが、


「一度だけ、会ってあげて」とセラに説得され、仕方なく“面接”することになった。


「わぁ、妖精様だ!」

 リコは極めて社交的だった。ノルドも知っていたつもりだったが、改めて感心する。しかも、リコの言葉には嫌味がなく、心からのものだ。


 人たらし――いや、妖精たらしだ。


「ノルドには、ビュアンがいないと駄目だ」

「美しい妖精って、ビュアンのことを言うのね」

「今度、私の作ったお菓子をビュアンに食べてほしい!」


 次々と繰り出される、相手が欲しがる言葉。

「うんうん、リコ、お前わかってるな。仕方ない、チームを組もう」

「ワオーン!」

 ヴァルも賛成した。


 チーム・ノルドの方針は、まず地図づくりだ。

「大きな森だ。知らない魔物もいるかもしれない。気をつけて行こう!」

「おぅ!」「ワオーン!」


 リコは、孤児院の仕事と勉強を一週間お休みして、この探索に参加している。

「バインドカズラの調査討伐の報酬は貰えるんだ!」

 

 ちゃっかり者のリコは、ダンジョン町の宿も、ニコラの紹介状を手に入れて安く泊まるつもりだ。

「別に、家に帰れる距離だよ」

「合宿だよ! それに、ダンジョン町も見て回りたいよね」


 孤児院では、小さい子どもたちの世話を一日中している。リコにとって、この探索は息抜きでもあるのだ。

「どうせ、冒険者の街なんて碌でもないわよ!」ビュアンは否定的だ。


「美味しいお菓子のお店があるのよ。買って帰って、宿で食べない?」

「……仕方ないわね」

「それじゃ、森に入るよ!」

 

 ダンジョン町の近くに広がる森は、冒険者の練習場としても利用されているらしく、人が通る道ができていた。さらに、人の気配も多くある。


「魔物の森への入場は禁止しているはずなのに、どうなってるんだ!」

「冒険者だもん。私たちより強いよ」

「それなら、討伐依頼を受けてくれればいいのに……」

 

 ノルドは不満に思いつつも、冒険者たちの実力を見てみたいとも考えていた。

「じゃあ、ノルド、冒険者たちの後をつけようよ!」リコも同じ考えのようだ。


 ヴァルが先行し、その後をノルド、リコが続く。当然、人の通らない道を進む。

 ヴァルは、ノルドが歩きやすい道を探してくれる、気の利く相棒だ。


 

 しばらく森の中を歩いていくと、視界が開けた。そこには小さな草原が広がり、その先にはごつごつとした岩壁がそびえている。


「四人いるね。何してるんだろう?」ノルドがつぶやく。


 草原の中央では、剣士と魔法使いの二人ずつが組になり、戦いの基礎訓練を繰り返していた。


「見てろよ、火魔法を放つ。攻撃目標の動きを予測して、撃つんだ」

 

 魔法使いが火の玉を放つと、それは正確にスナクという魔小蛇の頭を打ち抜き、蛇が地面へと落下する。


「今だ!」剣士が駆け寄り、鋭い一撃で魔物を仕留めた。


「次はお前たちだ」 剣士が弟子たちに声をかける。


 弟子の一人が水魔法を放った。だが、最初の何発かは空を切り、ようやく放たれた水流が蛇に命中する。ぐらりと揺らぎ、蛇が地面に落ちる。

「今だ!」 剣士が叫ぶ。


 新米剣士が剣を振るうが、刃は魔物の体をかすめることなく空を切った。魔小蛇はすぐさま森の奥へと逃げていく。


「まだ遅い。判断も、素早さも足りない」 剣士はため息をついた。

 

ノルドたちが潜んでいた茂みのほうへ、逃げた魔物が向かってくる。

 しかし、冒険者たちはそれに気づいていない。


「何あれ? 水鉄砲みたい!」 ビュアンがくすくす笑いながら、ふわりと飛んだ。


「威力ないなぁ、魔力も剣も」 ノルドが真剣な顔でつぶやく。


「セラ母さんと比べちゃ駄目よ」 リコが言いながら、ヴァルが飛びかかり、逃げてきた魔小蛇を仕留めるのを見届ける。


「うん、それは確かに母さんとは比べられないね」 ノルドは微笑んだ。

 

 セラの魔法剣士としての実力は、圧倒的だ。

 例えば、巨大な火の矢を連続で放ち、敵に完膚なきまでに叩きつける。剣の鋭さも、速さも、強さも、まるで踊るように美しく、しかし残酷。

 

 彼女の背中を追うのが、ノルドの目標だった。

 

 ビュアンは空を舞いながら、ぱちぱちと手を叩く。


「でも、あの水魔法、可愛かったね! 魔法って、こんな風にも使えるんだ!」

「ビュアンがそれを言うの?」 ノルドは思わず苦笑した。


 

 やがて、冒険者たちは訓練を終えると、ククリという魔壁蔦を採取し始めた。ある程度集めると、周辺の森へと入り、小さな魔物を仕留めながら、来た道を戻っていく。


「あの蔦、何に使うんだろう?」

「私たちも取ってみようよ、ノルド!」リコがすぐに動き出す。

「じゃあ、少しだけね。帰ったら、魔物図鑑で調べよう」

「冒険者ギルドで用途を確認するのもいいかもね」


 ノルドたちの背の高さでは、すでに蔦は取り尽くされていた。そこで、リコがヴァルを軽々と持ち上げ、放り投げる。ヴァルは鋭い前足の爪を使い、器用に蔦を切り落とした。


「色んな魔物がいるな!」ノルドは楽しげに言う。


「そうね」リコが笑う。

「どこの森にもある、エルフツリーを探しましょう!」

「でも、これだけ広いと……」

「すぐにわかるわよ! みんな、行きなさい!」

 

 ビュアンが合図を送ると、精霊たちがノルドたちの周囲をくるくると回り、ふわりと飛び立っていった。

 エルフツリーは、森の中心に存在するものだ。なぜなら、その森を生み出しているのが、まさにその樹だから。

 どうやって生まれるのかは誰にも分からない。だが、魔物も人も、それ以外の何者も、この樹を大切にしている。


 シシルナ島の中央に広がるダンジョン町の森には、一際大きなエルフツリーが三本もそびえていた。

 一番手前にあるエルフツリーから順番に、フロンティア、アルテア、カリスと名付け、ノルドの作成した地図に書き込んでいく。


「ねぇねぇ、私の家の木の名前がないんだけど?」 ビュアンが少し不満そうに言う。

 

リコは少し考えた後、にっこり笑って言った。それじゃあ、ビュアン様の木でどう?」


「却下!」 ビュアンは即座に否定する。


「そんなのじゃ面白くないわ。ノルド、ちゃんと考えて名付けなさい!」

 ノルドは少し困った顔をしながら言葉を絞り出す。


「うーん……これは特別な木だから、じっくり考えないとね」 正直、まだ思いつかなかったのだ。

 

 ビュアンは腕を組み、考えたふりをした後、くすっと笑う。


「それならいいわ! 楽しみにしてるからね!」

 

 そうして、ノルドたちはフロンティアの木の下でしばし休憩し、昼寝を楽しんだ後、ダンジョン町へ向かうことにした。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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