表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シシルナ島物語 天才薬師ノルド/荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣  作者: 織部
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/215

別離 さようなら

 シシルナ島の港と、海を一望できる丘に、一つの墓がある。一年前に作られたばかりの新しい墓だ。ちょうど、一周忌にあたる。


 ノルドは静かに手を合わせる。頬を伝う涙は止まらない。何度拭っても、胸に残る静かな痛みは消えなかった。


 隣にはメイド姿のリコがいて、神妙な面持ちで同じように手を合わせている。


 墓石には「ニコラ・ヴァレンシア」の文字が刻まれている。


 墓の場所は、ヴァレンシア孤児院の庭の片隅――ニコラが生前、特に好きだった場所だ。


 庭からは港を見渡すことができ、海上を行き交う船の様子が見える。シシルナの島風が木々を揺らし、花々を優しく撫でていく。


 ニコラは子どもたちとよく笑い合っていたのだろう――そんな光景が浮かぶ。


「そろそろ時間だよ、ノルド君。セラさんによろしく伝えてね」


 島主様が声をかける。


「それでは、行きます。また来ますね」


「ぜひ来てください。あ、そうだ、クリームの納品もお願いします」


 新たにヴァレンシア商会長に就任したメグミが、笑顔で見送っていた。ノルドは慌てて家に戻らなければならなかった。


 ヴァルの背に乗ると、ヴァルは力強く走り出した。


 途中、ヴァレンシア孤児院へ向かう荷馬車とすれ違う。 


「おーい! ノルド!」


 声をかけてきたのはノシロの馬車だ。リジェが二人の間に生まれた小さな子を抱いている。名はニコラ。女の子だが、勝気で元気な子らしい。


「そろそろ、魔兎肉頼むよ! 稼がないといけないからね!」


「わかりました!」


 笑って答えるノルドに、ノシロの馬車は勢いよく遠ざかっていった。


 丘を降り、森に囲まれた家への登り道を歩く。


「もう、どいつもこいつもノルドに仕事を頼みすぎよ」


 さっと現れたのは、風と水の精霊ビュアンだ。精霊の子から成長し、妖精の姿を持つようになっていた。ある事件をきっかけに、ノルドと行動を共にするようになったのだ。


「大丈夫だよ、ビュアン。心配してくれてありがとう!」


「そう。あまり無理を言う奴なら、とっちめてやるからね」


「もう着くから、隠れていて」


 家の前には二台の豪華な馬車が並んでいる。


「ですから、これは私人でもあるセラ様のお見送りですから、私が連れて行きます」


「いや、彼女の功績はシシルナ島として無視できない。私が責任を持って」


 グラシアスさんとローカンさんが、セラをどちらがサナトリウムに連れて行くかで口論をしている。

「遅くなりました。母さんを運びます」


 ノルドが静かに口を開くと、二人ははっとして口を閉ざした。


 セラはこの二年でさらに体調を悪化させ、ほとんど歩けなくなっていた。サルサとノルドの根気強い説得により、ようやくサナトリウムへ入ることを承諾したのだ。


「クライドさんとローカンさんは、お母さんの荷物を運んでください。大切なものです」


「ワオーン!」


「さっ、ローカン様、運びましょう。荷物を」


「ああ、ヴァル君の指示だからね」


 島主に強く言われていたのだろうが、ローカンは急に素直にうなずいた。


 ノルドはセラを背負い、グラシアスの馬車へと運ぼうとする。


「大丈夫よ、ノルド。私、歩けるわ」


 セラの声はかすれていたが、優しく響いた。


「違うんだ、母さん。これは僕のわがままだよ――最後くらい、僕に頼ってほしいんだ」


 ノルドの言葉に、セラは静かに目を伏せた。

「ありがとう、ノルド」


 その言葉を胸に、ノルドはセラを馬車に乗せる。グラシアスが扉を開けると、優しくセラの肩に自分のマフラーを巻いた。


「さあ、行こうか」


 セラ親子の家を出発する。ノルドは、この先一人で暮らすための家をすでに見つけていた。


 馬車がゆっくりと走り出す。二人が過ごした日々を背に、新しい日々が始まる場所へと向かっていった。――二人の物語はまだ続くのだ。




 



最後までお読みいただきありがとうございました。


ノルドの物語は続きます。又、いつか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ