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シシルナ島物語 天才薬師ノルド/荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣  作者: 織部
第一章

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決着

残り2話です

 ナゼルは、力の入っていないノルドの剣を飛ばした。剣は遠くに転がっていく。


「もう、片方の足の腱も切れば動けまい」


 ナゼルはノルドを蹴り、礼拝堂の床に倒した。体の小さな子供は、難なく倒れた。


 小狼は、飛ばされた剣を取りに走る。


「全く、手間をかけさせやがって」


 ナゼルがノルドの脚に剣を刺そうとした瞬間、礼拝堂の空気がざわめいた。


 突如として吹き荒れた突風が、馬乗りになっているナゼルの体を吹き飛ばした。暗殺者の体は壁に激突する。


『本当に、呆れるほど、弱い狼ね』


その声は、炎を回っている小さな精霊たちの中から聞こえる。エルフツリーにいた時に、聞いた声だ。


「ありがとう、助かった」


『お父様の礼拝堂を綺麗にして、清き水をくれたお礼よ』


「大したことはしてないよ」


ヴァルは、驚きつつも立ち上がったノルドに剣を届けた。


「痛いなぁ。お前、精霊使いだったのか!」


ナゼルは立ち上がろうとするが、ふらつきながら片手で壁にすがり、体勢を整える。


『話の邪魔をするな』


再び突風が吹き荒れ、今度はナゼルの体を軽々と天井の壁に叩きつけ、さらに床に落とした。


『燃やしなさい、火の精霊の子よ』


 祭壇の光を回っていた小さな火の精霊たちが、一斉にナゼルに向かって飛んでいく。


『あの子たちは、お前の焚べた護符に力をもらった』


「貴方は、精霊王様なのですか?」


『馬鹿な子ね。私は、シシルナの風と水の精霊よ』


 ノルドは、精霊と話したことで冷静さを取り戻し、ヒールポーションを使って体力を回復させた。


 再び、剣での撃ち合いが始まる。しかし、ナゼルはもう薬も毒も使い切っており、剣は折れ、体は数回の壁への激突と炎に焼かれて悲鳴をあげ、疲れで動けなくなっていた。


 ノルドの剣やヴァルの攻撃を受けて、ナゼルは徐々に追い詰められていく。


 ついに、ナゼルは命乞いを始めた。


「助けてくれ! ポーションをくれ。高く買うから! 俺は戦いたくなかったんだ!」


「ふうん」


「お前たちを殺す指示をした奴を教えるから」


 ナゼルは、必死に武器を手にしたままだ。彼の考えていることが手に取るようにわかる。


「母さんが言ってた。迷うな、最後まで戦え、と」

 

ノルドは、剣をしっかりと握りしめた。震えはもうない。目の前で命乞いをするナゼルを見ても、一瞬の躊躇いもなく、剣を振り下ろした。


 もう、涙は出なかった。



 ヴァルの雄叫びで、セラは目を覚ました。一瞬で。


「助けに行かなきゃ」レイラは、寝床から、飛び起きた。


「目が覚めた? 大丈夫そうね」カノンは、セラの服と剣を差し出した。


「あなたは……」カノンからの悪意は感じず、


「話しは後よ。グラシアスが馬車の準備をしてるわ」


 セラ達が駆けつけた時には、決着がついていた。



 階段を一歩一歩、ゆっくりと登る。


 戦いが終わった体は重く、剣を握る手には微かな震えが残っている。だがノルドは足を止めなかった。


 階段を登りきると、そこにはセラ、グラシアス、島主、リコ、そしてローカン達が待っていた。皆の視線がノルドに集まる。


「……よくやったな」グラシアスが一歩前に出て静かに声をかける。その瞳には、かつての冒険者だった頃の自分を重ねるような色があった。


「大丈夫か?」島主が心配そうに尋ねる。


「平気だよ」ノルドは短く答える。声は掠れていたが、響くものがあった。


 無言のまま見つめるセラの瞳には、安堵と誇りが浮かんでいるように見えた。ノルドはそれに気づかないふりをする。


 リコが駆け寄り、目を輝かせながら声を弾ませる。「すごかったよ!あんな風に戦えるなんて!」リコが、監視役だったようだ。扉から、様子を伺っていたのを知っていた。


 その言葉に、ノルドは少しだけ笑みを浮かべた。

「大したことはしてないよ」と言いながら剣を鞘に収める。その動作は、わずかだがどこか凛としていた。


 皆の視線を受けながら、ノルドは少し背筋を伸ばす。誰かに認められたという実感が、胸の奥に静かに広がっていく。


 島主が手を叩き、「ローカン、クライド、後片付けだ」と促すと、一同は礼拝堂へ向かって歩き出す。


 上空に、グリフォンが飛んでいるのが見えた。ネフェルやアマリ、三英雄が背に乗っていて、ノルドに手を振ると、飛び去って行った。


 ノルドは最後にもう一度階段を振り返る。静寂の中、礼拝堂の扉は今もそこに佇み、彼を見送っているかのようだった。


「さあ、帰りましょう。私達の家に」


「ワオーン」


「母さんのご飯が食べたいな」



 祝祭が終わり、一つの季節が終わった。



 それは、ノルドの子供時代の終わりだった。



 そして、二年の月日が流れた。


 


 





お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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