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シシルナ島物語 天才薬師ノルド/荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣  作者: 織部
第一章

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対決

 

 ノルドとヴァルは罠の準備を終え、森の中の小屋で昼寝をしていた。思っていたよりずっと早く終わったからだ。


「ノルド、来るよ!」


「おはよう! リコ!」


「おはようじゃないわよ! 本当に呑気ね……」


 リコは思わず息をついた。ノルドはすっくと立ち上がると、ヴァルも体を振って準備を整えた。


「リコ、危ないから下がってて」


 小屋を出て、ナゼルを迎え撃つ。



 遡って、その日の昼。


「おー、やっぱり、居たな」


 家の裏の小屋で製薬をしていると、ローカンとクライドが現れた。


「どうしたんですか?」


「詳しいことはさっぱりわからん。ただ、手伝いをしようと思ってな」


「ガレア様の指示ですか?」


「違う。俺たちだって、何も見えてないわけじゃない。恩を返させてくれ」


 ローカンとクライドの真剣な顔に、ノルドは少し考えた後、静かに頷いた。


「……罠張りの手伝いだけで十分です」


 大きな台車に罠を積み、魔物の森へと向かう。クライドが台車を引っ張りながら、得意げに言う。


「どうだ! すごいだろう! 重戦士になったんだぞ!」


「羨ましいですね、僕も早く――」


「魔物から逃げ回ってたくせにな」


 ローカンの軽口に、クライドはむっとしたが、すぐに笑い返した。


 ノルドは表情を崩さず、淡々と進む。応援が来てくれたことで作業の負担は確かに軽くなった。


 罠を設置し始めた頃、慌ただしい足音と共に声が響いた。


「いたいた! ノルド!」


 振り返ると、ノシロが駆け寄ってくる。


「よくこの場所がわかりましたね」


「まあな、遅くなってすまない。さあ、手伝うぞ!」


 既に腕まくりをしているノシロに、ノルドは少し驚きつつ問いかける。


「ニコラ様の指示ですか?」


「いいえ、母さんは何も。この人がどうしてもって――」


 その背後からリジェが現れ、軽く肩をすくめながら答える。


「ノルドのこと、放っておけないのよ」


「お前もだろう?」


 ノシロの声に、リジェは素早く視線を逸らし、照れ隠しに笑う。


 ノルドはノシロらの言葉に頷き、静かに指示を出した。


「ありがとうございます。罠を張る作業だけです。お願いしたい場所があります」


 作業を終えると彼らには森から出て行ってもらった。


「頑張れよ」心配そうに、みんな去って行った。



「思ったより、奴の移動が遅いな」


 ナゼルの位置は匂いで把握できる。聖王国の大使館からヴァルが持ち帰った奴の遺留品で、匂いを覚えていた。


 森の入り口からこの小屋に至るまで、複数の罠を仕掛けてある。だが、丁寧に回避しているようだ。


「一つくらい罠にかかりそうなものだが、なんて奴だ……」


 ノルドの表情に焦りが浮かぶ中、ようやく姿を現したナゼルは片足を引きずっていた。


「子供騙しの出迎えかと思ったが、やはり子供だったか?」ナゼルが冷ややかな声で挑発する。


「何だと!」


「お前を捕まえて、この島から出してもらうさ」


「捕まえられるものか!」挑発を返しながら、ノルドは木陰に身を隠す。


 しかしナゼルは罠を悉く避け、その一つ一つを巧妙に回避している。優秀なアサシンとしての実力を見せつけていた。


「くそっ! 足さえ動けば、お前なんて――」


 最高級のリカバリーポーションを使っても怪我が治らなかった暗殺者の首領。もし怪我をしていなければ、今頃こちらが捕まっていただろう。三英雄の援護なのだろう。


 だが、この状況でも奴は十分すぎるほど危険だ。


「ああ、そうだ。だが、お前を仕留めるのは俺だ!」


 そう叫びながらも、ノルドはじりじりと距離を取る。


「逃げてばかりでは殺せないぞ!」


 ナゼルは頭上から落ちてくる網を避け、落とし穴も正確に回避しながら接近してくる。


 森の木々の隙間から、花火の光がちらちらと差し込んだ。


 爆音とともに、祭りの歓声が遠くから響く。


「そろそろ、行こうか!」


 その音を合図に、ノルドはダーツを投げ始めた。


「おいおい、また子供騙しか!」


 挑発的に笑いながらも、ナゼルは防具の厚い部分で受け止め、脚を庇うように地面に膝をついた。


「しゃ、しゃっ」猛毒を塗ったダーツを連続で投げ込む。


 だが、ナゼルには何本ものダーツが刺さっているにもかかわらず、毒は効いていないようだ。


「そんなものが効くわけがないだろう。もう終わりか?」


 ナゼルが立ち上がろうとしたその瞬間、ヴァルが背後から忍び寄った。


「甘いわ!」


 振り返りざま、短剣でヴァルを狙うナゼル。しかしヴァルは高く跳び上がり、木の枝を蹴って罠を落とす。


「くそっ!」


 姿勢を崩したナゼルの前に、液体を浴びせられた毒蛇が落ちてくる。


 必死に剣を振り回して毒蛇を仕留めるナゼル。


「姑息だな……だが思い出したぞ。昔、毒液まみれになった女がいたな。お前も俺たち一族のようだな。毒液でなくて良かったよ」


 ノルドの仕掛けた液体は蜂蜜だった。


「毒液の代わりさ」


 その瞬間、怒り狂った大魔熊たちが迫ってきた。ヴァルが彼らを巣から誘い出していたのだ。


「お前もやられるぞ! 自爆のつもりか?」


「ああ、だが奴らは蜂蜜が好きだからな!」


 しかしいつの間にか、ナゼルが吹き矢を放ち、ノルドの首に刺さっていた。


 その場に崩れ落ちるノルド。慌てて、ヴァルが駆け寄って守ろうとする。


「お前たちは囮だ」


 服を脱ぎ捨て、ナゼルはその場を素早く去った。片足を引き摺りながら。


「がるるるる!」木々を薙ぎ倒しながら、大魔熊たちが迫ってくる。その恐ろしい咆哮が森を震わせ、耳をつんざくように響いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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