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追跡



「そうか、わかった。ところで、何匹ゴブリンを仕留めたんだ?」


 ガレアは、島庁に、オルヴァ村から報告書を持って来た警備員に冷静に尋ねた。


「……ウマで逃げられてしまい、一匹も」


「ふむ、しかし学校では、クライド君が戦ったと報告があるが?」


「……そう言えばおかしいですね。戦闘の跡も見当たりませんでした」


「まあいい。援軍は出さない。その代わり、私が向かおう。冒険者ギルドに追加クエストを出せ。ドラガンに『オルヴァ村でボブゴブリンが現れた』と伝えるのだ。島主権限で報酬金を引き上げる!」


 島主は、机から紙を取り出すと、素早く書類に記し押印して渡した。


「ボブゴブリンですか?」


「ああ、間違いない。ただのゴブリンが、小難しい策を使うわけがない。率いているのだろう」


「そうですか……島主様の戦いが見られるのでしょうか?」


 警備員は、期待とわずかな緊張を滲ませて尋ねた。


(お前たちは、倒せないことを恥じろよ)


 ガレアは内心で毒づきつつも、淡々とした表情を崩さなかった。


「いや、オルヴァ村では私の出番はないさ」


「ローカン警備長ですか? それとも、クライド村長が?」


「ははは、面白い冗談だな」


 ガレアは、仕舞い込んでいた、使い込まれた杖を手に取り、その重みを確かめた。



 学校の中庭に張られたテントで、仮眠を取っていたローカンは、警備員の声で叩き起こされた。ほんの少し仮眠を取ろうとしただけだったのに。


「緊急事態です。ローカン警備長!」


「入れ!」


 寝ぼけた頭を抱えて、ローカンはベッドに腰掛ける。まだ意識が半分眠っている。


「人攫いです。子供がいなくなりました。しかも、何人もです」


「本当か?  遊びに行ってるのではないのか? 攫ったのはまさか?」


「はい。ゴブリン共です。目撃者もおります」


「なぜ、学校の外に子供が出ているんだ!禁止していないのか……」


 ローカン自身も夜襲を終えたばかりだというのに、再び襲撃されるとは考えていなかった。体が重く、頭もすぐに覚醒しない。


(まずい、これは責任問題だ……)


「ローカン警備長、村の子が攫われたぞ!  どうしよう?」今度は、クライドが慌てて飛び込んできた。顔が引き攣っている。


「どうしようも、こうしようもないだろう。取り返すまでだ!」


 ローカンは勢いよく立ち上がり、ため息をついた。


「じゃあ、援軍の到着を待って、森に入るのですね?」


「そんな悠長な考えでは間に合わない、一刻を争うぞ!」ローカンは即座に答えた。


「私には、ここを守る役目がありますから、よろしくお願いします」クライドは静かに言った。


 警備長は少し黙った後、鋭く目を細め、言葉を続けた。


「いや、村民の救出だ、お前は行かないとな。あとは……うちから精鋭の2人の内、どちらかが」


 その時、警備員たちが顔を見合わせ、無言で頷いた。


「そう言えば、ローカン警備長は、強盗団の討伐で魔物の森に入られてました。私達、2人で応援が来るまで、ここを守ります」


 それを聞いたクライドは、少し安堵の息を漏らしながら答える。


「……あ、そうですね、それでお願いします。ローカン警備長が行ってくださるなら、心強いです。じゃあ、行きましょう!」


 仕方なく、彼らは出発の準備を始めた。 警備員たちの顔には、無意識のうちに少しの安堵が浮かんでいた。


 この島は、平和で、比較的裕福な島だ。その為、冒険者になれても、危険を犯してまで、磨こうとはしない。


 魔物の森や、ましてやダンジョンには踏み入らない。選ばれた彼らは、その中では比較的果敢な方ではあるのだが……


 ローカンとクライドは、魔物の森に足を踏み入れた。大森林ほどではないが、森の中は薄暗く、光が届かない。


 少しでも進むと方向感覚が鈍り、道を見失いかねない。


 準備に手間取り、すでに夕方になっていた。


「ローカン警備長、こちらで合っているのですか?」


「わからん。ただ、たしかこっちだ」


 ローカンは、村から離れ、前回踏み入った街道の脇道まで戻り、人の往来があった微かな跡を頼りに進んでいた。


 しかし、クライドはそれを探索魔法か何かだと勘違いしている。


 やがて、以前強盗団の死体を発見した小さな空き地にたどり着いた。


「休憩しよう」ローカンが声をかけると、クライドはほっとしたように地面に座り込んだ。


「疲れたぁ……」


 魔物の森にいるにもかかわらず、クライドには警戒心がまるで感じられない。


 この様子では何かスキルや能力を隠しているのかもしれないと、ローカンは少し疑念を抱いた。


「ところで、クライド村長。君の冒険者としてのジョブは何だ?連携が必要だ。俺は剣士だ。悪いが教えてくれ」


「……」


「すまん、聞こえなかった」


「ありません」


「……は? まさか、初級冒険者なのか? 島の外で修行を積んだんじゃなかったのか!」


 ローカンは頭を抱え、ふぅと息を吐いた。すると、不意に湖のほとりにある小さな小屋が目に入り、彼は近づいて扉に手をかけた。


「なんだ、この小屋……妙にきれいじゃないか。しかも鍵がかかってる!」


 ガチャガチャと扉を引っ張ると、突然「ワオーン!」という雄叫びが響き、ローカンは驚いて剣に手をかけ振り返った。


 現れたのは毛並みの美しい小狼だった。


「おいおい、ヴァル君じゃないか! こんな森に散歩か?」


 クライドは腰を抜かし、呆然としている。


 ヴァルと呼ばれた小狼は首を振り、ローカンの服の袖を引っ張った。


「待て待て、今日は遊んでる暇はないんだ。……あ、そうだ、干し肉をあげよう!」


 ローカンはもう一方の手でポーチを漁ったが、ヴァルは一瞬考え込んだあと、残念そうな顔をしてさらに裾を引っ張った。


「……何かあったのか? わかったから、口を離してくれ!」


 ヴァルは首を振り、走り出す前に「ついて来い」と言わんばかりの視線を向けた。


「クライド、行くぞ!」


 ローカンは行き詰まっていた状況を打開できると考え、すぐに後を追った。


(島主には、ヴァル君のせいにして報告すればいいな……)


 ローカンが内心で楽観的に考える中、クライドはその様子を尊敬の眼差しで見ていた。


 ローカンが小狼を飼い、あらかじめ森に派遣していたのだと思い込んでいる。


「しかし、速いな!」


 クライドは汗を垂らし、息も絶え絶えになりながら走る。ヴァルは時折後ろを振り返り、あまりの遅さに呆れたような表情を見せた。


 あのノルドの足の速さと比べても、明らかに物足りないのだろう。


「もう無理だ……休ませてくれ!」


 クライドが叫ぼうとした瞬間、目の前にゴブリンが現れた――。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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