表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シシルナ島物語 天才薬師ノルド/荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣  作者: 織部
蠱惑の魔剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

200/216

魔剣の牢獄

「我をどこに連れて行くつもりじゃ?」

 魔剣は風に乗り、ダンジョンの空洞を漂った。刃先が揺れるたび、冷たい声が辺りに響き渡る。

「五月蝿い。黙ってなさい」


 ビュアンの声が一閃し、風が唸りを上げた。

 眼下には、火炎を噴き上げる穴が赤く脈動している。


「まさか、我を落とすつもりか! 我は勇者の使いし剣ぞ!」

 剣は必死に抵抗するが、炎が刃を舐め、熱で赤く染まり始めた。


「それがどうしたの?」

 ビュアンの声は淡々としているが、その奥には怒りの冷たさが宿っていた。

「精霊王もそれを知っているはずだ。粗末に扱って良いものではない!」


 剣の声には誇りと傲慢が混じる。

「関係ないわ。――強欲すぎて捨てられたくせに」

 ビュアンが風を止めると、剣は一瞬、炎の穴へと落ちかけた。


「危ないだろう!」

 剣は必死に浮上しようともがくが、逆風が吹き付ける。火と風がぶつかり、轟音が生まれ、剣の声はかき消されそうになる。


「それとお父様が怒ってるのよ。ダンジョンを二度も傷つけたのはあなたでしょ!」

 ビュアンの声には、たしなめるような厳しさが含まれていた。


「悪かった。許してくれ。我にもラゼルを守る契約があるのだ」

「ノルドを傷つけたことは許さないわ。しばらく大人しくしていなければ――溶かすからね。わかった?」


 剣はしぶしぶ黙り込んだ。金属が擦れるような小さな溜め息が、風の中に溶けた。


 ビュアンは魔剣を、四階層の試練の部屋へと運び込んだ。そこには一片の灯りも無く、暗闇に閉ざされている。鍵がなければ開けられない――監禁に適した場所だ。


「カリス、しっかり見張っていてね。ノルドの元に戻るわ」

「ええ、任せて」

 ビュアンと同じ声を持つ精霊の木が応え、重い扉に鍵を下ろした。


 扉の向こう、蠱惑の剣は暗がりの中で微かに光を揺らし、低く笑う。

「まあよい。ラゼルに助けに来るように伝えよう」


 ドラガンたちは、ラゼルを助け出し、港町の庁舎にある介護室へと運び込んだ。

「ここは……どこだ?」

「お気づきですか。島庁舎の介護施設です。襲撃があるかもしれませんので」


「魔剣は……くそっ」

 ラゼルは身を起こし、後頭部の傷を触る。薬の香りが指に移った。


「薬を塗りました。お疲れですので、今日はゆっくりして下さい」

 カリスが穏やかに言う。

「他のものはどうした?」


「フィオナは行方不明です。ダンジョンの壁が崩れましたので……サラは食事中です」

「呑気なものだな。まあ良い。ドラガン、祝祭の準備は?」


 ラゼルにとって、奴隷とはそれくらいの存在だ。

「準備は滞りなく進んでおります。唯一、ヴァレンシア孤児院のメグミは逃しました。サナトリウムに逃げ込んだのではないかと」


「そうか……港の封鎖は済んでるんだろうな?」

「はい、もちろん」

 ラゼルは口の端を吊り上げた。

 この島の権威ある者はすでに魅了し、味方につけてある。


 祝祭が終われば、全てが自分のものになる。

「祝祭が終わったら、魔剣を取り返しに行こう。冒険者全員でな。どこにあるか知っているからな」


「御意」

「どこにあるのですか? とってきますよ」

 フィオナが問う。

「いや、ダンジョンのある場所だ。教えることは出来ない」


 ラゼルは低く呟いた。――自分で取りに行く。二度と手放したりはしない。



 ブランナは幻影の魔術を使い、ヴァルを救い上げていた。そして、ドラガンたちが立ち去るのを待って、ダンジョンから脱出した。


「これを飲んで」

 ノルド作成のリカバリーポーションを飲ませ終えると、空の瓶を投げ捨て、次にヒールポーションを与える。


 魔剣の光線を受けた箇所は、体毛が焼け、再生した肌がまだ赤く痛々しい。

「クーン」


「大丈夫よ、助け出すから。あなたが元気にならないと、ノルドが苦しむわよ!」

 ヴァルを担ぎ、魔物の森を迂回しながら、やっとの思いでセラの家への道を急ぐ。


「重たかった……ほら、着いたわよ」

 門にたどり着くと、ヴァルは飛び降り、セラの元へ駆け寄った。


「クーン」

「そう、ノルドを守ってくれたのね。体力を戻さないと。食事を用意するわ!」

 セラが頭を撫でると、ヴァルは尻尾を振って喜んだ。


「呆れた。歩けたんじゃない!」

「姉さん、お帰りなさい」

 ブランナは息を吐いたが、フィオナが駆け寄って抱きついてきたので、頬を緩めた。


 セラの家には、出かける前に残っていた人たちの他に、リコやローカンも来ていた。

「え? ノルドが捕えられたのか?」

 ローカンが目を見開く。


 ノルドのことだ。人を傷つけるような真似はしない。きっと素直に従ったのだろう。

「すいません。ヴァルを助けるので精一杯で」

「わかった。俺がなんとかしよう! どこに連れてかれたんだ?」


「サラが探ってます。すぐに連絡が来るはずです」

「任せておけ!」

 ローカンの言葉に宿る自信に、セラもリコも目を丸くした。


「ワオーン!」

「おいおい、ヴァル君、信じてくれよ! こう見えても元警備総長だ。うまくやるさ!」

「やはり、若い奥さんができると変わるものね? ね、セラ?」


 カノンは、冷たい視線をローカンに浴びせた。

「そうね。それで可愛い奥さんはどこにいるの? たいしたものは用意できないけど、小物を作ってプレゼントするわ。材料ならこの家に残ってるし」


「えっ、セラさんの手作り!? やった、ヒカリが喜ぶ!」

「セラさん、ノルドは大丈夫でしょうか?」

 ガブリエルが、余裕のある会話が繰り返される中で、心配そうに問う。


「当たり前よ。あの方がついているんだもの。逆に怒らせる方が怖いわ。今頃、収納から美味しいものでも取り出して食事してるわ」

 リコは、予想していた。


「じゃあ、私たちも食事をしましょう。リコ、カノン、手伝って」

 セラが立ち上がる。

 その時だった。窓の外から羽音が聞こえた。

 伝聞鳥が舞い降りる。


 脚には、グラシアス商会の印が刻まれた封書が結ばれていた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ