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夏光の誓い


 島庁舎の出口。ノシロとローカンは、困惑した表情で外に出てきた。

「ねえ、ローカン。私、ガレアの部屋にいたとき、机の上の手紙を読んじゃったの」


 ヒカリは得意げに話す。

「それって、盗み見だよ、ヒカリ」

 ローカンは笑いながら言った。

「どんな内容でしたか?」


 ノシロが気になって尋ねる。

「島主の執務机には二通の手紙があった。一通は共和国のブロイ伯爵から。封蝋の家紋で分かったわ。有名だからね。中身は、犯罪者ラゼルの即時引き渡し要請」


「もう一通は?」

「どこだろう、あのちっちゃい国、名前が出てこない……」

「ちっちゃいと言えば、サン=マリエル?」


「ローカンギルド長、笑わさないで。あ、思い出した!モナン公国からだわ。中身は、ラゼル王子が持ち出した魔剣の即時返却要請」

 ローカンは深いため息をついた。


「やっぱり、この島に来ると碌でもないことに巻き込まれるな……」

ノシロはこれからの行動を考えた。

「私はまず、ヴァレンシア孤児院のメグミに話をしに行きます。ローカン様は?」


「そうだな。大したことはできないが、祝祭まで残ることにする。いいかな、ヒカリ?」

「やったぁ! 時間ができたから、ロッカ兄のいるダンジョン町にも遊びに行けるね。祝祭には、きっとネフェル聖女も来るでしょ!」


 ヒカリの目は輝いていた。

「そうだな」彼女の明るさに救われるのだ。ローカンは思った。


 長期休暇はさらに数日伸びることになる。昔のローカンなら、まあいいかと祝祭の食べ物のことを考えていたが、今は悩ましげな表情だった。


「ローカン、友達を救いましょう」

ヒカリの言葉は軽やかだが、確かな重みがあった。



 ノルドたちは、フィオナのパワーレベリングを終えてダンジョン町に戻ってきた。

「あとは任せて。私とカノン親子がいるから!」


ノルドの母、セラが言った。その強さを知るノルドは、黙って頷いた。きっと魔物の森の奥にいる大魔熊たちを仕留めてくれるだろう。

「私もいるから!」


 リコは元気に尻尾を振り、レベル酔いしているフィオナの看病をしながら言った。ヴァレンシア孤児院に戻らずに済む理由ができ、セラと一緒にいられるのが嬉しいのだ。


「フィオナ、本当に大丈夫?」

寝床にいる彼女にブランナが声をかける。

「うん。大丈夫。天井がくるくる回ってるけど、皆もそうだったって聞いたから!」


「だって、フィオナは我慢するから」

「相変わらず心配性だね、姉さんは。でも私はずっと配してたんだよ!」

二人は熱い抱擁を交わした。


「今晩から顔を出さないと、ラゼルが何を言うかわからないわ。そろそろ向かいましょう」

 カリスが冷静に出発を告げた。もう日が沈んでいた。


 ダンジョン町に着くと、ノルドは他の人たちと離れ、ひとりアレンの家へ向かった。冒険者ギルドの近くの高級アパートメントだ。

「音がしないな……」


 ドアノブに手をかけると、なぜか鍵はかかっていなかった。

 何度も来たことのあるアレンの家だが、こんなことは一度もなかった。


「アレンさん、入りますよ!」

 部屋は、匂いも薄く、数日前に出かけたままの様子がうかがえた。いつもは整った部屋だが、まるで引っ越すかのように物が少ない。


「アレンさんも、この島から出て行ったのかな……」

 ノルドは寂しさを抱え、家路についた。



 ノシロはヴァレンシア孤児院でメグミに会った。

「兄さん、もう朝から大変よ。各大使館から、夏の祝祭について聞いてないって文句が来てね」


メグミは冷静を装いお茶を淹れてくれたが、その声には棘があった。

テラスには、ニコラの好きだった席にディスピオーネもいた。


ノシロは島庁での出来事を話す。

「そんな状況なのか……。何度か会いに行ったが、警備に追い返されてしまって」

カニナ村の村長でもあるディスピオーネは難しい顔をした。


「議会とかで説明を受ける機会は?」

「ラゼルの島主代行の話も祝祭の話も議会ではなし。いや、議会自体まともに開かれていない」


「それだけじゃないの。共和国とモナン公国からも、ラゼル王子の危険性について警告が届いている」


 メグミは孤児院の院長であり、商会長でもある。影のシシルナ島の権力をニコラから引き継いでいる人物だ。だから彼女のところにも大陸から話がくる。


「そして、お前たちでできなければ、こちらで排除する、と」

「よっぽど嫌われているんだな」

 ノシロは驚いた。ここまでの内政干渉は聞いたことがなかった。一つ間違えば戦争になりかねない通達だ。


「全てが政治的とは言えないの。サルサ様からも、英雄たちが騒いでいるって話をもらっているわ」

三人は黙り込んだ。やがてメグミが口を開く。


「この島の問題は、この島で解決する。母さんがそうしてきたように、兄さん、小父さん、協力してくれないかしら」


「協力? ふざけるな。俺たちは当事者だ。なあ、ノシロ」

「もちろんだ、メグミ。これは俺たちの大切な島だからな」


 テラスの向こう。海の見える崖の近く、ニコラの墓は夏の光に照らされて輝いていた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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