表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/195

夏の祝祭、再び


 冒険者総出の探索が終わった翌日の早朝、シシルナ島の村々の伝令版には、島主から緊急の告知が張り出されていた。

「夏の祝祭の実施について」


 実施日は掲示されたたった三日後。事前に誰にも相談なく、議会にもかけられず、シシルナ島に駐留する各国の大使館への案内もなかった。


 一、シシルナ島民は、必ず参加せよ

 一、当日、重要な発表をする

 一、貴賓が出席される


 シシルナ島にとって祝祭は、とても重要な意味を持つ。しかも夏の時期に行われる異例の祝祭は過去の一度だけ。

「どうなってるんだ?」


 祝祭の実行委員長を務めるノシロの店には、掲示をいち早く見た商人や島民が、商売の場所を確保しようと押し寄せていた。

 だが、彼も初耳だ。


「ガレア様に話を聞いてくる。悪いが、明日来てくれ!」

 ノシロはやむを得ず強引に店を閉めた。詰めかけた人々に、娘のニコラが怯えて泣き叫び、抱き上げた妻のリジェからは冷たい無言の視線が突き刺さる。


「いや、俺は何も悪いことしてないぞ……」

 ノシロは急いで島庁を訪れたが、ガレアは会議中とのことで、島主の部屋に続く廊下で待たされることになった。


 面会の順番を待つ列の中に、人だかりがあった。

「誰だ?」


 中心には、がっしりとした中年男性と若い女性がいた。年齢差はあるが、二人の間には自然な親しみがあり、周囲でも笑い声が絶えず、会話が次々に行き交っていた。まるで、輪の中にいる誰もがそのやり取りに引き込まれていくかのようだ。


「ローカン元警備総長じゃないですか? 見違えましたよ。確かサン=マリエル公国に戻られて……」

 ノシロがその人物に驚き、声をかける。


「小さな国の国防隊長をしているよ。紹介する、ヒカリだ」

 若い女性は元気に答えた。

「ヒカリです。ローカンギルド長のお世話をしてます!」


「まさか、新婚旅行ですか?」

「ノシロ、お前まで……まあ、そんなもんだ。本当は冬の祝祭の時期に来たかったんだがな。国に帰る前にもう一度挨拶に来たんだ」


「そうですか? 急に祝祭が開催されるになったんですよ」

「ああ聞いた。驚いたよ。しかも……」

 ノシロとローカンたちが会話に夢中になっていると、ラゼル王子たちが島主の部屋から退出し、後ろを通り過ぎて行った。


 まるで、そこに人がいないかのように、いや目に入らないように。

「何だ、あいつ!」

「何言ってるの、廊下で騒ぐ方が悪いでしょ」ヒカリが注意する。


「そういうつもりで言ってるんじゃない。あの男から漂う空気が異様なんだ」

 ローカンはラゼルの後ろ姿を睨みつけた。

 島主の部屋から、警備長が出てきて言った。


「悪いが、ガレア様の都合がつかない。要件なら、私が聞いて後日書面で答えさせてもらう」

 待っていた嘆願者たちは、一斉に文句を言った。

「悪いが、ガレア様にも用事があるんだ。今日のところは解散してくれ」


 監察長が全員に嘆願書の書類を渡すと、急に静かになり、皆は文字を紙に走らせた。

「そうか、体調が悪いなら遠慮しようと思ったが、俺は挨拶をさせてもらう」


 ローカンは一人、島主の部屋に向かって歩いた。

「困ります、ローカン殿」

「挨拶だけだ」

 警備隊員たちも、ローカンが元上司であり、島主との関係も知っているため、本気で止めようとはしていない。


 大きな体に似合わぬ素早さで警備員たちの前を通り抜け、扉を開けた。ヒカリもノシロも黙って後ろをついてきた。


「島主様、ローカンです」

「ああ……ローカンか……久しぶりだな」

 椅子に座るガレアを見て、三人は驚いた。やつれており、まるで精気を吸い取られたかのようだった。まるで老人だ。


「久しぶりでは無いですよ。数日前にも会いましたよ」

「そうだったか……少し記憶が曖昧でな」

 いつもの高慢な話し方ではなく、少し弱々しい口調。ローカンは顔が引き攣った。


「ガレア様、祝祭についてですが」

 ノシロが口を挟む。祝祭の開催まで時間が無いのだ。

「ノシロか、ニコラは元気か? 祝祭の準備はお前に任せる。ただし今回は島民だけでやるし、チャリティもやらないと孤児院に、メグミに伝えてくれ」

 ガレアは、話すだけでも辛そうにしていた。


「聞きたいことが山ほどあるんですが……」

 さらに、ノシロが質問をした時

「聞きたいことなら、当日、楽しみにしているといい」


 警備長に呼び戻されたラゼルが急いで部屋に戻って告げた。

「それと悪いが、まだ会議中でな。出て行ってくれないか?」


「ガレア、サルサ様のところで診てもらおう」

 ローカンが島主に差し出した手を、ドラガンが叩いた。

「ああすまない。でも島主様の体調が悪いなら、我々が面倒を見るので安心してください。それではお引き取りを」


 ラゼルは、警備兵たちに合図を送り、ローカンたちは彼らに追い出されるように部屋を出た。

「まずいな、島主様の状態、普通じゃないぞ」

「ああ、それより周りの連中もおかしい。特にラゼルとかいう男」


 扉は重い音を立て、後ろでがちんと閉まった。それはまるでダンジョンのボス部屋の扉のようだった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ